「宇田川源流」【日本報道検証】様々話題となる「ヒズボラの通信機器爆破テロ」

「宇田川源流」【日本報道検証】様々話題となる「ヒズボラの通信機器爆破テロ」


 中東が騒がしい。そもそも、ユダヤ教とイスラム教、そしてキリスト教のこの三つの「ヘブライの民」の宗教を、ある程度理解し、その対立の歴史を見てゆかなければならない。世界史の中で、世の中に強い影響を与えながらもその根拠地となる国家を持たない民族としてユダヤ人・アルメニア人・印僑・客家と「四大移民集団」があるとされている。そのユダヤ人の中で、古代より「自らの国家を持つ」という運動がされており、その動きのことを「シオニズム」という。このシオニズムは1948年にイスラエルを建国したことで一応の終結を見たことになっているが、しかし、この建国はイギリスの「三枚舌外交」といわれる、外的に見れば褒められるような内容ではない戦時外交によって、無理矢理に建国をしたことになっているので、アラブ社会はイスラエルの建国に対して怒りを表明することになる。特に、ヘブライの民の宗教すべてに共通する聖地である「エルサレム」がその範囲に入っていたことから、アラブ社会とイスラエルの対立は非常に大きなものになった。

このころから、シオニズムは、「独自の国を建国する」というような運動から「イスラエルと聖地エルサレムに対するた勢力からの介入を武力を含むすべての行動に寄って排除する」というような運動に代わる。

このアラブ社会とイスラエルの対立は、そのまま、中東戦争に発展するが、1978年にエジプトがアラブ社会の中でイスラエルと和平を行い、その後1993年にPLO=パレスチナ解放機構とイスラエルの間で和平が成立する。いわゆる「オスロ合意」である。

しかし、パレスチナの中の一勢力であるハマスは、そのオスロ合意を容認せず、イスラエルの国家としての存在を承認しない立場をとった。事実上、パレスチナがファタハとハマスで分離したということになる。アラブ社会の多くがオスロ合意を受け入れる、少なくとも中東戦争のような戦争を避ける動きになっているのに対して、イランと、ハマスを中心にした勢力は、オスロ合意を承認せず、イスラエルを排除する(正確に言えば、イスラエルという国家を承認していないので、パレスチナ領土内とエルサレムを不法占拠しているユダヤ教徒を排除するというような論理になる)ということになるのである。今回のハマスの行動はその延長線上にある。もちろん、ファタハのヨルダン川西岸に置ける植民行動や、ハマスの人々がいるガザ地区に対する差別的な行動などもあるが、きっかけは、イランの支援による武力の充実であるということになろう。

そして、ハマスの行動になぜアラブ社会が呼応して反イスラエルに動かないのか、ということが疑問になる。もちろん、イスラム教からすれば、ユダヤ教はある意味で対立的な概念になる場所であるが、しかし、同時に「イスラム教スンニ派」からすればイランやシリアといった「イスラム教シーア派」も異教徒といって過言ではない。そのように考えれば「異教徒とシーア派と組んだスンニ派のハマスは、アラブ社会を裏切った存在」ということになりまた、アラブ社会からすれば、「自分たちが合意した内容を反故にする動きをしている和平の敵」というような考え方になっている。

一方、当然にイランに味方する人々もいる。シリアなどがその中に入るが、そのほとんどは国家ではなく「テロ組織」とアメリカで認定されている人々である。それがハマスであり、また、ヒズボラであり、またフーシ派である。

そのヒズボラやフーシ派、ハマスは、イランの革命防衛隊の中の諜報機関である「ゴドス」から支援を受けている。ゴドスというのは、アメリカでいえばCIAのような存在で、そのトップはトランプ政権の時であるから2020年1月に、テヘラン空港近くで、無人機リーパーによってトップの将軍ソレイマニが殺害された。そのことによって、穏健派のロウハニがその年の4月の大統領選挙で落選し、対米強硬派で知られえるライヒ大統領が就任したのであるが、そのライヒ大統領が今年5月ヘリコプターの事故で亡くなり、また穏健派(本人は改革派と主張しているようであるが)のペゼシュキアン大統領が就任しているのである。

そのような関係を頭の中に入れたうえで、前置きは長くなったが、今日の参考記事になる。

<参考記事>

ヒズボラの通信機器相次ぎ爆発、9人死亡・2700人超負傷 イスラエルに報復示唆

2024年9月18日 8時38分 ロイター

https://news.livedoor.com/article/detail/27203690/

連日の通信機器爆発に報復を宣言 ヒズボラ「イスラエルに処罰を」

2024年9月20日 9時23分 共同通信

https://news.livedoor.com/article/detail/27219546/

空爆でヒズボラ幹部を殺害か

2024年09月21日 05時38分TBS NEWS DIG

https://news.nifty.com/article/world/worldall/12198-3401781/

<以上参考記事>

 さて、今回の内容は、そのゴドス軍が配布したヒズボラ用の連絡危機であるポケベルのようなものが、一斉に爆発したという事件が17日に発生した。その事件によって3000人以上が不承し9人が亡くなっている。町中に普通に生活しているヒズボラの構成員が、その街中で活動している最中に、一斉に爆発したのであるから、一般市民を巻き込んだ大きな事件に発展し、国際法違反ではないかというようなことを主張する人々も少なくない。まあ、ある意味で「テロ」であるから、国際法違反も何もないのであり、テロリストの逮捕の時にその周辺にいた民間人に被害が出たからと言って、そのことが即国際法違反になるのかといえば、それは、なかなか難しいところであるが、非難する側は間違いなくそのように非難するのであろう。

 ところで少々余談になるが、この「国際法違反」という主張で、日本人の読者の中に、「どの国際法のどの部分に抵触するのか」ということを正確に説明できる人はいるであろうか。日本人の場合、すぐに法律違反などということを言うが、「平時の国際法」「戦時国作法」「国際私法」の区別もついていない人が少なくなく、法律ということを感覚的または感情的に話してしまう人が少なくない。2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの越境攻撃は何がよくなく、その後、イスラエルがハマスに対して宣戦布告をして、その宣戦布告の中、つまり「戦争を国際的に行っている中で犠牲が出たこと」に関して、イスラエルを非難する日本のマスコミなどは少なくないが、では、ハマスの国際法違反は何で、イスラエルの国際法違反は何なのか、しっかりと説明できる人は全くいないのではないか。少なくとも、根拠もなしに「かわいそう」というセンチメントで避難している人が少なくないことに、日本の外交や報道の危うさを感じる。ただ、この問題は今回の内容とは少し異なるので、ここで終わりにしておこう。

さて、ヒズボラこの爆発に対して「イスラエルがやった」と言っているが、果たしてどうなのであろうか。

そもそも「通信機器」は、自前で作っているわけではない。また音声通話をすると周囲の人にばれてしまうので、文字情報で送るということから、ポケベルのようなものが使われている。そのポケベルに関しては当然に、充電電池が使われており、そこに爆発物が仕掛けられていたということになっている。しかし、それは製造時に爆発する電池または爆発物が仕掛けられていない限りは、誰かが仕入れた製品に爆弾を仕込まなければならない。同時にそのことを知っていてそれを配布するということが必要になってくる。製品のチェックなども必要なので、ヒズボラ、またはそれを支援しているゴドスの中に、そのことを取り仕切っている人が必要ということになるのである。

つまり、この前のハマスのリーダーがテヘランで爆死した事を含め、「イランの革命防衛隊の中にイスラエルの動きに呼応している人」つまり「現在のイランのハメネイ大使絵に批判的な人がいて、その人が裏切っている」ということが明らかになる。そうでなければ、イスラエルの情報機関の人だけではそれはできないということになるのであろう。ある意味で「爆弾を仕込むまで」はできたとしても、さすがにイスラエルの情報機関が直接爆発するポケベルをヒズボラの構成員に渡すわけにもいかないし、そのようなものをヒズボラの構成員も使わないであろう。つまりヒズボラの人々が信用する人が、イスラエルに裏切っているということを示すのである。

そして、その裏切り者がいる間は、間違いなく、イスラエルの情報機関が関与使用がしなかろうが同様の事件が発生するということになる。今回の事件で、最も傷ついたのはヒズボラを支援しているゴドス軍の信用と、そして、ヒズボラやイランの革命防衛隊、ゴドス軍の中に「裏切者がいる」という疑心暗鬼を生んだ事であろう。

そしてそのことをイスラエルはうまく利用する。

つまり、電波発信機に何かを仕掛けるのであるから、当然に、ヒズボラの根拠地がわかっているということになる。レバノンの首都ベイルートや、そのほかの都市で、拠点となっているところがわかっており、そこを空爆すればヒズボラの、少なくとも拠点のトップである幹部を殺害できることもわかっている。その通りに、空爆し、幹部が死亡したのである。

まさにイスラエルの情報の勝利ということもできるが同時に、イランの革命防衛隊の中の亀裂も明らかになってきている。すでに85歳を超えるハメネイ最高指導者に限界が来ているということや、イラン国内に、女性のヒジャブデモ、またはロシアへの支援など、様々な意味で国政にゆがみが出てきているということではないか。

そのことをしっかりと指摘して、中東の和平に持ち込むことを考えるという論調がでてきてもおかしくはない。なぜ「平和を主張している」日本ではそのような「建設的な意見」が出ないのか、そこが最も不思議なところだ。

宇田川源流

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