「宇田川源流」【大河ドラマ 光る君へ】 ヒール役藤原道兼の死と叔父甥の権力争い

「宇田川源流」【大河ドラマ 光る君へ】 ヒール役藤原道兼の死と叔父甥の権力争い

 毎週水曜日は、と書きながら先週はゴールデンウィークなのでお休みしたのであるが、一応水曜日のお楽しみとして、大河ドラマ「光る君へ」の内容を、勝手に作家的な視点といえば格好いいが、私個人の視点で様々なことを書いている。

今回は、初回にまひろ(吉高由里子さん)の母であるちやは(国仲涼子さん)を、特に罪があるわけでもなく八つ当たり的というか通り魔的に殺した藤原道兼(玉置玲央さん)が亡くなったシーンが話題になった。

藤原道兼に関しては、すでに以前どの様な人生を送ったかということを史実として起こっている内容から、話をしたので、子尾で繰り返すことはないが、実際には、この道兼という人が花山天皇(本郷奏太さん)を出家させ一条天皇(塩野瑛久さん)を作り出すという、天皇家に最も影響をもたらした人物であることは間違いがない。もちろんその内容は父である藤原兼家(段田安則さん)に命じられて「一族のために汚れ役を引き受ける」という事であったが、そのことによって常に汚れ役をするというような立ち回りになってしまっていた。

ドラマの中では、その汚れ役であった道兼が、兄道隆が関白になり自分が排除されたことによって自暴自棄になっていたところ、幼いころには嫌いであった道長に救われ、心を入れ替えるということがかかれ、そのうえで「汚れ役」という言葉が「危ない危険なことをする」ということから「皆が嫌がる必要なこと」をするというような形に変わっていった姿が描かれた。その「嫌がる必要なこと」とは、まさに、疫病(現在はこれが天然痘・疱瘡ではないかといわれているが)に対しての処置を一手に引き受けていたことになっている。今回関白に就任するにあたり、道長(柄本佑さん)から「救い小屋の件」といわれているあたり、疫病対策が道兼の「罪滅ぼし」になっていたのではないか。

そのような中で、兄の道隆(井浦新さん)が亡くなったことで、関白が回ってきたが、しかし、それが7日間でなくなってしまうということになったのである。

その亡くなったシーンは、自分の疫病が道長に移らないように「出てゆけ」と怒る。問題はそのあとの「笑い」であるが、多分、私ならば、「自分の人生は与どれ役であったのだから関白などは似合わない」というようなことと「自分のような汚れ役でもしっかりとやっていれば関白にまで上れた」というような二つの入り混じった感情があったのに違いない。その感情の複雑さが、笑いという感じ、つまりこれは「自分の運命を決め神に対する笑い」なのか「自分自身の運命そのものに対する笑い」なのか、様々な意味合いを込めた笑いであった。その笑いを玉置玲央さんは、非常にうまく演じていたように思えるし、また、記事によれば、台本になかった柄本佑さんの背中をさするという行為で、何か様々なことが救われたような感じになったのではないか。

悪人であり、最も汚いことを知っている人であったからこそ見えた「善行の姿」がある。後世でもやくざの大親分が善人になり貧しい人に救われたり、江戸時代には大盗賊鼠小僧治郎吉が貧民にあがめられるということがあるが、そのような形が、この物語の中に生きているのではないか。

『光る君へ』藤原道兼役・玉置玲央、”劇中一のヒール”全う 第1話のインパクトに『オモロイ』と視聴者の”戦線離脱”心配

 NHK大河ドラマ「光る君へ」で”劇中一のヒール”藤原道兼が5日放送の第18回で退場。関白に任命され、これからというときに倒れ、やがて亡くなるという意外にも静かな最期だった。汚れ役を全うした俳優玉置玲央(39)がこれまでの思いを語った。

 「光る君へ」は吉高由里子(35)がヒロイン紫式部/まひろを務め、そのソウルメイトとなる藤原道長を柄本佑(37)が演じている。道兼は道長の次兄にあたる。

 道兼が第1話の終わりに、まひろ(幼少時代は落井実結子)の母・ちやは(国仲涼子)を刀で切り付け惨殺する場面は、平安時代の優雅な雰囲気を一気に吹き飛ばし、強いインパクトを残した。

 演じていた本人は「台本をもらった時、『オモロイじゃないか』って」と意外な反応。「なのであまりプレッシャーを感じず、これをどうやって、その先の物語や道兼の人物像につなげていけるだろうと意識した」。

 ただ不安もあったと明かす。「1話が衝撃的に終わるので、こういう話が続くようだったら今回の大河は見なくていいやと思われるのもイヤだなと」と視聴者の”戦線離脱”を心配したという。

 そんな道兼だが、父の死を経て、兄弟との関係性を含め人間性にも徐々に変化が見られた。「道長に救ってもらったのがきっかけ。道長のおかげで少しだけ真人間になれた」。

 さらに「僕、結構、殺人犯かクズの役が多いんですよ。だから、言い方あれですけど、お手の物なんです」と照れくさそうに笑い「自分はいろんなクズをまだやれるんだなって思えた。ある種、今後のやりがいでもあります」と言いつつも「いい人の役、本当はやりたいんです!」と最後にちょっぴり本音ものぞかせた。

2024年5月5日 20時46分 中日スポーツ

https://www.chunichi.co.jp/article/894472

 さて前半が長くなってしまったが、脚本の大石静さんのすばらしさは、なかなか面白い。今回のドラマは、ある意味で時間の流れを追っているような感じになってしまっているのであるが、しかし、その中にも様々な仕掛けがあった。

道兼の死というところから、当然のように次の関白は誰になるのかということが大きな問題になる。もちろん、関白は置かなくてもよいのであるが、一条天皇が誰を自分の腹心として指名するのかということは、なかなか興味深いところになるのであろう。その争いは道兼の弟である道長であるか、または道隆の息子である伊周(三浦翔平さん)その「道兼の次の関白」をめぐって、様々な思いが出来る。藤原実資(ロバート秋山さん)などは、「次は道長」と明言していたが、しかし、多くの人は伊周の主宰する食事会に参加するというような感覚になっている。

そこを藤原詮子(吉田羊さん)が横やりを入れて伊周を止めさせるということになる。

さて、そこまでは史実であっても見ての通りになる。実際に、道隆の死後に道兼を関白にするにあたって、藤原詮子は公家に伊周の評判を落とさせているということがあるうえに、実際に道隆の時代にかなり評判を落としている伊周は、実際に大きな問題があったのであろう。そのようなことから一条天皇が道長に内覧をさせると決めた時である、そのことに苦情を藤原定子(高畑充希さん)に言いに行くときに、「御子を埋め」とすごむことになる。これは、道隆が病に倒れて、苦しい時に、自分の子供伊周を関白にするときに、自分の娘である定子にいう言い方と全く同じにしている。ある意味で「伊周の運命」と「道隆の運命」というのをこの定子を中心にリンクさせて、うまく話をつないでいるということになる。

このシーンを見ていると、数回前に道長と伊周が弓比べをして、伊周が負けたシーンがよぎるようになっているのである。まさに、そのような「過去の話を、役者を変えてリフレインさせる」事で様々なことが見えてくるようにしているのである。そのうえ、「道長によって改心した道兼」と「道長に対抗して道隆のたどった権力に取りつかれた道」を、今回の前半と後半でうまく交差させて対比するというような物語の作りをしているという工夫には、やはり作者のうまさが際立っているのではないか。

もちろん、冒頭の、藤原宣孝(佐々木蔵之介さん)とまひろのやり取りなども、この先この二人が結婚するということがわかっていると、そのやり取りがなんとなく意味があるようになり、複数の「伏線」と「対比」で、人の心の移り変わりをしっかりと書いているような感じがするのではないか。

もちろんそれらの対比が、すべて「源氏物語」などになぞらえているところも忘れてはならない。なかなか凝った作りになっていると思うものである。気づいた人はいるのであろうかというくらい、伏線や対比などの「仕掛け」が書かれているのはなかなか面白いのである。

宇田川源流

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