小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 25
小説 No Exist Man 2 (影の存在)
第一章 再来 25
「なるほど。やはりな」
珍しく、東銀座の事務所には東御堂信仁も、嵯峨朝彦も、荒川義弘、菊池綾子、青田博俊、葛城博久、藤田伸二、そして京都の小川洋子もそろっていた。いつもは二・三人しかいないこの事務所が少し狭く感じる。そのような場所に今田陽子が入ってきた。
「何がなるほど何ですか」
今入ってきた今田陽子にとっては、何の話をしているかは全くわからなかった。
「いや、今田さん。実は先日の羽田倉庫の一部始終を、こちらの自衛隊の人々がすべて動画でとってくれているんだ。今はそれを見ていたが、やはり、あの中国大使館が借りている倉庫の中で何か薬品を駆けられて、そして感染症が起きているということになる。」
「そのことですか」
「それだけでなく、香港マフィアの奴らは、そもそもその中国大使館の倉庫から出てきている」
「えっ」
中国大使館の借りている倉庫の隣が、香港マフィア王獏会の借りている倉庫であり、そこに何かがあるのではないかというように考えられていた。しかし、王獏会のボスアレックス・ヤンが中国大使館の倉庫から出てきたとなると、かなり話は変わってくる。王獏会というマフィアは、中国大使館かまたは政府によって雇われた「日本をかく乱する工作者」であるということになる。もちろん違法薬物で日本を混乱させているのであるからやっていることは同じというように評価されるのかもしれないが、しかし、それが意図をもってやっているとなれば、その意図を探らなければならないということになる。そして中国政府と計画的に工作を行っているのか、または、今回の取引について単発的に行っているのかということも興味のあるところだ。
「推測の域を出ないが、もしかしたら正常に取引をして、そのまま中国大使館の中に引き入れたら、日本の暴力団だけが薬品を駆けられていたのかもしれない。そう考えれば、銃撃戦は彼らにとって予想外であったのではないか」
荒川は、画像を見ながらそういった。
「なぜそのように思うのですか」
「これです」
青田は、得意なコンピューターの操作で画像を加工した。コンピューターの画面の中は、倉庫の正面、葛城などがいるところから定点でサーモカメラで倉庫の中を映していたものである。その画面の中には、銃撃戦が映し出されていた。時折、熱があるあ海戦が倉庫の方に向かって飛んでいるのがわかる。微妙に狙いが外れているのを見て、菊池綾子は少し笑ってしまった。自分の旦那である太田寅正が、銃撃が下手であるというだけの話だからだ。
「これは銃撃でしょ」
「ここからです」
人型の影が、倉庫の中に入る前、倉庫の扉に人が近づき、中から扉を開け、手招きしていることがわかる。そして、その人々が中に入った瞬間に、倉庫の上の方から液体と思われる線が下に伸びてゆくところを画像が映し出した。サーモカメラであるので、その中で誰がやっているのかなどは全くわからない。しかし、誰かが招き入れ、そして口を封じるためかどうかはわからないが、ウイルスをつけて殺したのである。
「要するに、ウイルスそのものは、中国大使館の倉庫の中にあったものであって、今回のウイルスによる殺人も中国大使館か政府の人間がやったということでしょうか」
今田は、首相官邸で話してきた内容にぴったりくる結論をつけていった。
「ただな、中国大使館も少ない弾を、身内の香港マフィアを殺すために無駄撃ちはしないやろ。つまりな、この映像は、まず招き入れたことから、中国大使館がグルであったということがようわかるねん。つまり、奴らはここに身内のマフィアが入ってくることはわかっていたんや。それがな、そいつらにウイルスを使っておるんやな。要するに、ウイルスが大量にあるのか、または補充が可能というこっちゃ」
普段は、あまり関西弁は話さない特殊部隊の藤田伸二は、なぜかこの時は関西弁丸出しでその内容を話した。変に敬語を使わないことで、逆に要点もわかりやすいし、また、説得力もあった。
「中に培養施設があるという事でしょうか」
「そこまではわからん。」
藤田の答えはそっけないものであった。
「でも、有ってもおかしくないな」
荒川が腕を組みながらつぶやいた。青田はコンピューターの画面と格闘しながら、培養施設の有無を調べていたが、あまりにも鉄のコンテナの良が多すぎて、中まで見通せない。羽田の倉庫は、よほど安普請なようで、基本的には木造モルタルの古い倉庫に少しトタンで補強してあるような感じである。その為に、少しい強力なX線をかけながらサーモで見渡せば、かなり細かいところまで判別はできる。しかし、鉄のコンテナの中に入られると、全く見えなくなってしまうのである。
「政府では・・・。」
今田陽子は、そのように皆が考えて言葉が止まった時に口を開いた。
「政府は、というか阿川首相は、このウイルスを麻薬にまぜて津島組に売らせようとしていたんだろうと考えています。」
「なるほどね」
「それでどうするの」
そこにいた人々は、そんなことはすべて先にわかっていると言いたげな顔で、今田陽子を見た。今田にしてみれば、確かに、この人々であればそのようなことを言う必要はないとも思っていたが、一応伝えなければならない。
「それで、だから、津島組と王獏会の家宅捜索を支持しました」
「今田さん、それならば、必ずその二つから、携帯電話とコンピューターを押収してきてもらえますか。そうすれば、その解析で誰と会話していたかもすべて見えますし、またウイルスを仕込むことも可能です。」
青田は今田にそのように支持した。押収した電話やコンピューターにウイルスを仕込むというのはなかなか面白い発想である。
「ウイルスを仕込んでばれない」
「最新の私が開発したウイルスですから大丈夫です」
「今田さん、やっていただけますか」
東御堂が指示を出した。東御堂信仁の言葉は、やわらかい口調の言葉であるが、基本的にはこのメンバーの中では命令である。今田陽子も、うなづくしかない。
「さて、ではその押収品の解析を皆でやりましょう。その間に綾さんは、津島組のことを調べてください。裏には裏のルートがありますから。そして、あのウイルスに最も狙われやすいのが太田さんや西園寺さんですから、注意するように言ってください。」
「注意するって、どうするのよ」
「まあ、注意の方法がないですがね」
荒川はそういうしかなかった。
「我々は」
小川と藤田である。京都の二人が声を上げた。
「津島組とつながっている関西地方のアウトローの皆さんを見てください。特に横浜で行ったということは神戸でも同様のことが起きていると思って問題ありません。関西地方の中国領事館を注意してみてください。もちろん虎徹会の西園寺さんの協力を得ていただいて構いません」
「承知」
それでは、といって、その場は解散になった。
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