小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 15

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 15

「しかし、日本を混乱させると、日本だけではなくこの中華人民共和国も混乱してしまうということになるということでお困りなのでしょう。だから前回の常務委員会で、私はその様に申し上げたのです。」

 徐平は、まさに国会答弁のような事務的な言葉で言った。ここは周毅来国家主席の執務室であり、個人的な打ち合わせでしかないが、しかし、この国の官僚組織の人々はこのような態度でしか仕事ができないということになる。

「そのうえ、楊普傑が日本位に新種のウイルスをもって向かっている。ようするに今から止めるのは手遅れということだ。」

 話を繰り返して思考しないと、先に進めない。これが共産党青年団に所属する官僚の特徴である。徐平もその特徴を持っていることは周毅頼はよくわかっているので、自分でその繰り返しを行った。問題はここから、つまり日本が経済的に混乱した時に、中華人民共和国にどのように影響を少なくするかということである。

 徐平は、官僚で癖がある。しかし常務委員にまで上り詰める事の出来るほどその頭脳は明晰で優秀である。間違いなく日本で死んだ李剣勝の後任の首相はこの徐平ではないかといわれているほどである。しかし、この回りくどい官僚の性格が周毅頼と相性が悪い。そのことから首相への任命が遅れているというのが、噂好きの中国の人々の間ではもっぱらである。

「では、日本にはそのウイルスが蔓延するということになります。最低でも日本との国交は疫学的な目的による断絶を行わなければならないでしょう。もちろん戦争ではなく疫病をこちらに持ち込まないためということになる。当然に日本からこちらに戻ってくる中国人にも入国禁止をしなければなりません。しかし、それだけでは足りないでしょう。日本人は中国にだけ渡航するのではなく、韓国にも、アメリカにも、東南アジアにも渡航します。そこでまた流行し、そしてその人々やそこに行っている中国人が持ち込むということになるのです。その様になった場合には、結局すべての国にその新種の疫病が廻り、そのうえで中国だけを何とかするということになるので、当然に、中国だけがなんとなかったとしても、中国が孤立する。まあ、実際は無理でしょうベトナムでもロシアでも、モンゴルでも、空港閉鎖だけでは無理ということになるのです。」

 徐平は、至極当然の話のように冷静に言葉にした

「要するにCovid19の時と同じように、中国が孤立化するということになるのか」

 周毅頼はあきれたように言った。またゼロコロナ政策のようなことをしなければ病原菌を抑えることができないのである。

「はい、その様になります。もしも中国に病原菌が入らなくても、中国だけが孤立化し、各国との貿易もできk内ということになります。その場合は、貿易が止まり食料自給率で60%しかない注後l区においては、40%の人民が餓死に至るということになります。一方、どこからか病原菌が入れば、中国国内でも病原菌が中国人を殺すことになります。病原菌の致死率がわからないのでどれくらい死ぬかはわかりませんが、やはり中国国内は混乱するでしょう。」

「何か方法はないのか」

 周毅頼は、、イライラした口調で言った。このように彼をイライラさせることが、徐平が国務院総理になることのできない理由である。

「二つあります」

「ほう」

「一つは、病原菌が日本で蔓延する前に、日本に病原菌があることを公表し、他の国も日本との国交を断絶させるようにするということでしょう。しかし、そのようなことをすると、他国から、もちろん日本政府からも、我々が病原菌を広めたということがばれてしまうことになるでしょう。日本は様々な意味でかなり厳密に原因を追究します。その様な意味でどこから病原菌が広まったのかを公開することになります。世界では、我々を信用するか日本を信用するかということになります。その様な意味ではアメリカが中心になって中国を非難することになるでしょう。Covid19の時と同じというか、あの時の繰り返しになるのでより一層我々に対する風当たりは強くなるでしょう」

「それでは意味がない。結局中国が孤立化する選択肢になる。」

 周毅頼は、腕を組んだ。この男は自分で悩むということはせずm常に都合が悪いことは他人に責任転嫁する。今、彼の頭の中では、誰にこの追い詰められた責任を負わせるかということでいっぱいである。

「同志、もう一つ方法があります。」

「ほう、それを先に言いなさい」

 顔が急に明るくなった。

「今回の病原菌はよくわかりませんが、しかし、一般論として病原菌やウイルスというのは、一定以上の熱の中では生きていられません。その為に熱湯消毒を行いますし、また、火山の溶岩の中には変な病原菌はないのです。病原菌も微生物といって生物ですから、中には熱に耐性のある内容もあると思いますが、しかし、そうではないものも少なくないのです。」

「だからなんなんだ」

「病原菌が発覚した時点で、核攻撃をするのです。核の熱量で病原菌を抹殺する。それも我々は世界を病原菌から救うという名目で日本に対して核攻撃をする。このようにすれば、病原菌が世界に蔓延することを防ぐという名目で日本を核攻撃することができます。そのことによって日本を降伏させることができますし、阿川政権が残ったとしても、病原菌を蔓延させることを防げなかったということで、政権の信用は失われます。」

 一般に、軍に対するシビリアンコントロールというのは、軍人は、戦争を起こしやすいということになってしまうということになる。これは軍人は、戦うことをいとわないので軍人が軍や政治コントロールする場合は、戦争になりやすいということから、政治と軍は軍人ではなく一般の市民が制御すべきであるということである。しかし、一般論に反するような状況ではあるが、歴史では、一般の市民こそ、国家を戦争にしてしまう。軍人は、戦えば自分たち軍ン人が最も早く死の危機に瀕する。今まで隣にいた人物が死んでゆき、その死を自分が看取らなければならないのであるから、その意味では、もっともよくない状況であるということになる。その意味で「どこまで戦ったらよいか」ということがよくわかっているし、また、戦争を回避する方法も軍人であるからこそよくわかっているということになる。その様に考えれば、人の命を軽視し法的にまたが合理性から戦争に突っ込む、それも回避不能なところまで追い詰めてしまうのは、一般の市民の方なのである。

 まさに、今回の徐平もその最も良い例であろう。

 病原菌が熱に対して体制がないということは誰もが知っていることである。同時に、広いところに対して一気に熱を放出しすべてを焼き殺すのは、確かに核兵器が最も効果的である。その意味で、当然に、病原菌が蔓延した日本において、その病原菌を封じ込める、というかその病原菌を殲滅するためには拡散範囲に対して核兵器を使用し焼き殺すのが最も効率が良い。しかし、そのことで犠牲になる人は少なくないし、また、中国に対する国際的非難も少なくないということになる。しかし、徐平は「世界に蔓延させないため」という事で中国が悪名をかぶればよいということを言い始めたのである。当然に言葉にはしていないが、そのことで中国が病原菌をばら撒いた証拠も消してしまうということになる。

「それはよいですね」

 周毅頼が発言を戸惑っている間に、孔洋信が言葉に出した。しかし、その言葉の意味は、日本にいる中国人、つまり、陳文敏も、林青も、高鋼も、すべて殺してしまうということを意味している。中国の軍人は、「社会主義」であることから、国体が維持できればその辺の犠牲はいとわない。

「徐同志と孔同志は、もう少し待って、その内容のリスクをこの場で検討して、聴かせてくれ」

 周毅頼は、さすがに核攻撃となれば、慎重にならざるを得ない。

「かしこまりました、それでは・・・」

宇田川源流

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