小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 11

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 11

「大沢三郎が、自衛隊に頻繁に出入りしているそうよ」

 青山優子が店に来た翌日、菊池綾子は、すぐに事務所に来た。店は、銀座の一等地から現在は東銀座の歌舞伎座の近くになり、情報部の事務所は曽野綾子の店の同じビルの二階に入っていた。菊池綾子にしてみれば、自分の店に早めに来て、それも従業員用のエレベーターで二階に上がれば、情報部の事務所に入ることができる。

 この日は事務所の留守番役になっている荒川だけではなく、嵯峨朝彦や葛城博久も来ていた。

「なるほど、今度は独自に自衛隊を指揮しようということか」

 嵯峨朝彦は、いつものように水割りを口に含みながらそのようなことを言った。

「自衛官というのは、そう言うことに反発はしないか」

 荒川は、元自衛官の葛城に聞いた。自衛官というのは国を守ることが職務だ。それならば、国を滅ぼそうとすることなどは絶対にするはずがない。少なくとも、荒川には信じられない思いであった。

「荒川さん、そう言ったものではないのですよ」

「なぜ、それでは職務が完遂できないじゃないですか」

「いや、それは違うのですよ。実は自衛隊というものは陸・海・空、全てを併せて28万人が定員となっている。しかし、現在は24万人しかいない。つまり、4万人も欠員になっているのです。その24万人だって、実は不良高校生などを捕まえている。自分からくるものも、今の日本の学校教育は国家とか、愛国心を全く教えないから、自衛官が自衛官になるときに愛国心などは全くないのですよ。」

「愛国心がないのにどうして自衛隊になる」

「そうですね。私が直接聞いた話では、武器マニアとか、兵器マニア、それに人を殺したい人とかシリアルキラーの卵なんかもそのような感じの人もいるのです。実際に日本の場合は、自衛隊であって日本国内から出て戦うことはありません。色々と理論は学んでいるし訓練もしているが、実際に敵に撃たれて死ぬ人はいないのです。要するに、戦争の実践をしたことは全くないのですよ。逆に言えば、敵に前に出ないのですから、愛国心も何もいらないのです。そのうえ、定員が足りないから、愛国心などをテストすることもないのです。」

 葛城は、淡々と、しかしそれでいてなんとなく呆れたように話をした。日本というのはそのような国だ。そして、そのことの問題の根源は、日本の教育にあるということを主張したのである。この事は、ここにいる嵯峨も荒川も、そして菊池綾子でさえ、よくわかっていた。

「要するに、葛城君の話というのは、自衛官というのは愛国心の塊もいるが、逆に、愛国心も全くないシリアルキラーなどに、兵器や武器の扱いを推して手いるということになる」

「いや、殿下、それどころか愛国心が強い人は要注意人物として、マークされる組織なんですよ。」

「愛国心があると、怒られる軍隊なんて、見たことはないな」

 荒川もあきれるように言った。

「つまり、、青山優子の言った通り、自衛官を集めて大沢三郎が自前の軍隊を作るということが、出来てしまうということなのでしょうか」

「そうです。愛国心がない自衛官を集めて、大沢三郎の軍隊を作ることができてしまうのです。」

 その場ではしばらく沈黙が流れた。信じられるような話ではない。日本を守るはずの自衛官が、日本の政治家になっているにも関わらず、中国や北朝鮮それに極左暴力集団と組んで天皇陛下を殺そうとした人に仕えて私兵になるなどということを選ぶものがいるということなのだ。そんなことがありうるということになる。

「警察にもいっているのでしょうか」

「ああ、ここではわからないが、ありうるだろうな」

 嵯峨は、吐き捨てるように言った。

「そんなこと」

「戦前ならば不敬罪や反逆罪だな」

 またしばらく沈黙が流れた。

「ということはですよ」

 荒川が、沈黙を破るように口を開いた。

「要するに、中国軍や中国の工作員と、北朝鮮と、極左暴力集団と、大沢三郎の私兵、四つの勢力が別々に攻めてくるということなのかな」

「嫌なこと言うなよ。荒川」

 嵯峨はそう言った。

「でも、そうなりますね」

 菊池綾子は、口を開いた。

「わかりました。まずは自衛官の中に関しては、私が昔の関係を使ってどのような規模で広がっているのか、その中を調べさせましょう。そして、ある程度の勢力ならば、まだ大沢とかそのへんにばれていない藤田伸二に、潜入させましょう」

 葛城は、自分の経験を活かしてそのようなことを言った。藤田伸二に関しては、今は小川洋子の働く京都のバー「右府」に出入りしている。元々は自衛隊の別班にいた人間で、潜入捜査などを行っている人物である。その藤田を自衛隊に戻して、そのうえで大沢三郎の組織している自衛隊反乱軍の中にいれてしまうということを言っているのである。

「できるのか」

 嵯峨は、少し心配であった。藤田は小川洋子が一度連れてきたが、それ以上はその人物について全くわかっていない。理解しない人物を潜入捜査につかせるのは不安なのである。しかし、もしも信用できる人物ならば、疑うことが悪しい、また、その藤田の考え以外に何も明暗は浮かばない。そのようにしたとしても中国と北朝鮮、そして極左暴力集団に関して、その行動を監視し、その目的を知り、そしてその野望が日本を害するものであるならば、それを阻止しなければならないのである。そのような環境の中で、藤田が自衛隊を使えるのであれば、それは最も頼もしい。

「御心配には及びません。藤田ならばうまくだませるでしょう」

「よし、そこは葛城君に任せよう。後は、北朝鮮と中国と極左だ」

「北朝鮮は、小川洋子に任せればよいのではないでしょうか。」

 菊池綾子は言った。

「小川に」

「はい、京都で捕まえた北朝鮮の連中は、皆京都のメンバーです。それならば京都の方が仕事がしやすいと思います。それに、極左はうちのマサに任せようと思います」

 菊池綾子は、その様に提案した。菊池綾子の場合は、単純にクラブのママをやっているというよりは、銀龍組の太田寅正の妻ということがおもしろい。それもかなり年の離れた妻であり、太田が何よりもかわいがっている。その為に銀龍組が様々な操作を行うことができる。その極さの調査を元暴走族の人間絵、菊池綾子の幼馴染であるマサに任せようというのである。

「菊池には色々と世話になる」

 嵯峨朝彦は、菊池に頭を下げた。

「いや、太田も殿下のお役に立てることを喜んでおります」

「では、後は中国だな。しかし最も厄介だ」

 嵯峨が言うまでもなく、荒川も葛城もよくわかっていた。

「中国に関しては、国の違いもありますし、ネットなどの内容もあります。今田陽子さんに許可をもらい、青田さんに、ハッキングしてもらいましょう」

「ハッキング」

「はい。奉天苑や陳文敏のコンピューターをハッキングして、何を考えているか見ましょう。日本の場合は盗聴も違法ではないしハッキングもある程度ならばなんとかなる。」

 もちろん何かあって逮捕しても、裁判資料として登庁やハッキングの資料は使えない。しかし、そもそも今回の券は裁判になるような案件ではないし、また、そのつもりもないのである。そのように考えれば、ハッキングも一つの有効な手段なのである。

 嵯峨は、すぐに受話器を取った。

宇田川源流

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