小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 10

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 10

 自分が松原に渡された後、人間ではなく、モノのように渡されてしまったあと、青山優子は、大沢沢三郎に対して恨みのようなもの思っていた。できれば、そのまま立憲新生党を離党して与労の民主自由党に移りたいと思ってたほどである。何か、自分に自信がなくなり、まるで使い古されて、遊びに飽きられて、そのまま捨てられてしまったおもちゃのように、自分のことを愛せなくなっていた。そのような時にやさしく声をかけてくれたのが菊池綾子であった。

 菊池綾子は、自分自身の親に捨てられ、不良グループに拾われた経験など、不幸な生い立ちを包み隠さず、そして、少し笑いを交えるような形で話してくれていた。それも青山優子に何があったかを全く聞くことなく、しかし、まるで青山の身に何があったかをすべて見てきたかのように、そして自分がそのようなことをされてしまい、その心を共有しているかのように、青山優子の心をよくわかってくれていた。

 そんな菊池綾子に、青山優子が心を許すようになるのには時間がかからなかった。単にお酒を一緒に飲む仲間とか、店のままと客というような関係ではなく、何か昔からすべてを語り合ってきた親友であるかのように、なんでも語り合うようになっていた。そのようなことが青山の心をいやしたのか、そのことで青山優子はいつの間にか大沢三郎を許せるようになっていた。いや、大沢三郎の夢を実現するためには、自分の「身体」が必要なのであろうということが理解できるようになっていた。そのようになると、自分が今まで大沢三郎のことを話して批判してきたことを急に恥ずかしくなってしまう。いや、そのことを隠すような気がしている。今では秘密をばらしたののも、計画を言ったのもすべて自分ではないというような感覚になっている。

 菊池綾子の方は、さすがに長い期間銀座のままをやってきただけあり、そのような心理の変化をしっかりと読み取っていた。無理に何かを引き出すということではなく、なんとなく大沢の話題を行い、そして大沢自身の方が変わったというような印象をつけるような形になっている。そしてそれをなるべくテレビや雑誌などの話題に沿って出していった。実際に、マスコミ報道は面白おかしく興味本位でさっまざまなことを掻き立てるので、その内容をそのまま話題の中にあれば、相手もマスコミ報道から直接話題を選んでいるということがわかる。そのようにマスコミから直接話題を選んでいるということは、それほど大沢三郎やその政治に興味があるということではなく、井戸端会議的にまたその場の話題的にそのような話題を出しているというように判断されること、そして、大沢三郎という政治家が注目されているというような感覚を印象付けられる。そのうえで、マスコミがそのままであるから、それ以上の深堀で調べたりしていないという事にもなる。そのことはそのまま「青山優子だけが知っている」というような優越感を与えるようになり、なおかつそのことから秘密の共有で絆を深めたいというようになることから、また新たな秘密を話すようになる。

「大沢先生の変化ね」

「そうよ、マスコミで話題になっているじゃない。アイドルじゃないのにね」

「本当にアイドルという感じではないかな。少なくとも顔と年齢はね」

 青山優子の言葉に、二人は笑った。

「あの事件の後って、京都のテロのこと」

「そうよ、あの事件の後に大沢先生は何か変わったみたいで」

「へえ、変わったんだ」

「ここだけの話よ」

 青山優子は無意識に周辺を見渡した。菊池綾子がママのクラブの特別室。変な話、ここでカラオケを歌っても、外に音が漏れることはなような防音設備になっている。そのことを利用して、ここで変なセクハラまがいの事を行おうとしているような客も少なくない。もちろん、ホステスがそのような危険な目に合わないように、様々な防犯システムは存在する。特別知るにはいる場合は、必ず防犯ブザーを持っていることなどが条件になっていた。それだけではなく、菊池綾子だけが知っている防犯カメラも、また録音装置もすべて完備しており、よほど緊急事態が起きた場合には、消火設備が作動することになる。一応誤作動ということで済ませるが、もちろん身に迫った危険を排除するためである。

 菊池綾子はもちろん、青山優子にそのようなことは話していない。しかし、ここの会話はすべて録画されている。

「ここだけの話って、どこでもやってるんじゃない」

「そんなことないわよ。本当に私と綾子ママしか知らない話」

「なあに」

「あの教徒のテロ事件は、大沢が関与しているのよ」

 その話はずいぶん前に聞いている。しかし、そのようなことを言わないのが銀座のマナーだ。別に青山優子に限らず、老人客など同じ話を初めての話のように繰り返す客は少なくない。その時に必ず大げさに驚いて客を喜ばせるのは、ホステスの基本である。

「本当に、あんな事件に関与するなんて大変じゃない」

 絶対に非難しないというのも基本中の基本だ。そして、相手を肯定する。金さえ払えば人殺しもテロリストも、客でありそして、自慢話をするのは酒の最もおいしい肴である。それにその話が全て真実であるとは限らない。嘘であったり、他人の話をしているということも十分にありうるのである。そのように考えれば、驚いて喜ばせることの方が重要である。

 そもそも、このクラブ自体が広域暴力団銀龍組の組長であり、菊池綾子の旦那である太田寅正がオーナーである。そのように考えれば、別段人殺しやテロリストなどを恐れる必要はない。そもそも娑婆で話のできない内容を、ここで話す「別世界」であることが銀座の世界なのである。

「でも、あの事件、警察が先に察知していて、事前に制圧したでしょ。」

「そうね、私はよくわからないけど、中国の人だけが死んだんじゃなかったっけ」

「そうなのよ。それで大沢先生もなにかショックを受けたみたいで」

「で、どう変わっちゃったの」

「それが、何か誰かに狙われているみたいに、何かおかしくなってしまっているのよ。何か急に周りを気にしてみていたり、または何かおどおどしたり、なんだか今までの自信満々の大沢先生ではなくなってしまったの。」

「何かに狙われているのかしら」

「そうなのよ。何か心配で。だって私もそうなれば狙われる可能性があるという事でしょ」

 青山優子は本当に心配そうに言っていた。いや、そもそも自分がすべてを告白してしまっていることを完全に忘れてしまっているのであろうか。

「そうね。それでそのまま、ずっと?」

「いや、それがまた最近何か自身が出てきたみたいで、それも、いきなり自衛隊に行くなんて言い出して。この前一緒についていったのよ」

「一緒に」

「そう、そうしたら、一部の幹部の人と今の日本の政治はおかしいなんて言い出して、そのまま自衛隊員の住宅近くの飲み屋に一緒に行くなんてことに」

「へえ、どんな話をしていたの」

「革命だって」

「革命?それは面白いねえ」

 菊池綾子は驚いた。まさか大沢三郎は自分で革命を起こすために、自衛隊を回って革命を起こそうとしているという事であろうか。

「面白くないわよ。でもそれで中国なんかの力を借りないで大沢先生の政策ができるのならいいかもしれないと思って」

「そうね。ちゃんと応援してるからね」

宇田川源流

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