小説 No Exist Man 2 (影の存在) 第一章 再来 9

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

第一章 再来 9

「青山先生、お久しぶりです」

 立憲新生党の議員、青山優子の政治会合が都内のホテルで開かれた。そして、その会合には菊池綾子が後援会のメンバーとして出席していた。京都の事件が起きた後も、菊池綾子は青山優子の会合に出ていたので、特に不自然なことはなかった。それどころか、菊池綾子はすでに青山優子の後援会の中ではすでに顔の知られたような存在になっていた。

「あら、綾子さん。毎回ありがとうございます。」

「今日も部屋あけてあります」

「楽しみにしています」

 青山優子は、にっこりと微笑みかけた。

 毎回、後援会の会合の後には、菊池綾子の店である「クラブ流れ星」に来て二次会を開くことになっていた。それも他の人々の目を避けるために、特別室を準備するというように、菊池綾子は配慮してたのだ。そして以前の事件のことは、このクラブの特別室で、すべて青山優子が教えてくれたものであったのだ。

 しかし、青山優子はそのままうまく大沢三郎に取り入って疑われずにいた。それは大沢三郎が青山優子をかなり便利に使っていたということになるのではないか。実際に、政治的な動きの中ではかなり便利使いをしていた。彼女はそれだけ大沢三郎の政策をしっかりと理解していたし、またうまく説明できた。

 政治家の中には、論理的にはうまく説明できないが、言葉に説得力があるとか人間的な魅力があるというようなことがあり、その事から、政治家としての言葉の重みが変わってくるのだ。その言葉に説得力のある人と、それがない人では、全く同じことを同じ呼吸で言っていても、その説得力は全く異なるし、また、支持者も変わってくる。その人にはその人の雰囲気というものがあり、またその人の持っている「オーラ」のようなものがある。それを、自分でうまく活かした表現方法をしっかりとできるかどうかということになるのではないか。

 またもちろん「顔」という要素も重要である。人を外見で判断してはいけないということはよく言うことであるが、しかし、基本的には外見で判断されてしまう部分がある。その外見を明るい顔とか、人が助けたくなる顔というものがあり、その顔によって政治家は大きく変わる。そのように考えれば、青山優子は男性に好かれる顔立ちであったし、また、人に助けられるような雰囲気を持っていた。また少なくとも外見から見れば、明るく、人に好かれる感じであり、同性にも人気があった。これに対して大沢三郎は青山優子のような初々しさはなく、大物やフィクサーというような雰囲気があった。その意味で言えば青山優子は、大沢三郎では支持者として得ることのできない有権者層を得ることができた。そのように考えれば、大沢三郎は自分と全く違うタイプで、政策をしっかりと話すことのできる青山優子を失うことはできなかった。

 しかし、青山優子からすれば、自分の身体を松原隆志などに売り飛ばし、そして日本をよくするためというのではなく、天皇を殺そうとし、日本を滅ぼそうとした大沢三郎を信じることはできなかった。しかし、立憲新生党の中にいては大沢三郎と対抗することはできない。いやそれどころか、大沢三郎の後ろにいる陳文敏などは平気で人を殺す人々ばかりだ。実際に岩田智也は殺されている。そのように考えれば、一人で対抗しても何にもならない。そこで表面では従った形にして、大沢三郎のために粉骨砕身働き、そして、大沢三郎に対抗できる仲間を探したのである。

「あー疲れちゃった」

「本当にお疲れ様」

 クラブ「流れ星」の特別室には、菊池綾子がホステスの席に座り、青山優子が接待される席にいた。何しろ、ここは菊池綾子の店で、菊池綾子自身がママなのである。同時にこの店ではナンバーワンのホステスが菊池綾子であった。その綾子自身が特別室で接待しているのだ。

「それにしても、本当に立憲新生党の人々には困ったものよねえ」

 今回も、立憲新生党の支持者は困ったものであった。菊池綾子が演説している間に、大沢三郎の時からの支持者は青山優子に対して「迫力が足りない」「何もできていない」などということを騒ぎ始めるし、また一般の人々からくる人は、そのような大沢の支持者を見て離れて行ってしまうということになる。そもそも、大沢三郎のやり方や政策に反対している人も少なくないという状態である。これでは立憲新生党が政権などを担えるはずがないのである。

 青山優子にしてみれば、一生懸命日本のためそして有権者一人一人のため、頑張っているつもりなのに、大沢三郎という政治家のイメージが強すぎてその真意が全く通じない。いや、そのイメージに引きずられてしまっていて、青山優子個人とはみられていないという状態であった。

 しかし、そのような状態であっても、笑顔で対応しなければならないし、またうまく返さなければ避難される。場合によってはインターネット上にそのやり取りを切り取られて取り上げられ「炎上」するというような心配もあるのだ。その意味では、非常に気を使う会合であるが、しかしその会合をしなければ、票は集まらない。大変であっても、やらなけれっばならないのだ。

 その会合が終わって、ここで菊池綾子と話すときが、やっと自分に戻れるところである。この特別室はほかの人が全くいないので、何でも話せるのだ。菊池綾子とは、大沢が松原に青山優子を紹介した時の会合からであったが、すでにこの二人は幼馴染よりもはるかに仲が良いような感じである。

「本当に、こんな会合ばかりしていると、私本当に政治家があっているのかという気がするの」

「そうかな。すごい立派だったけど」

 菊池綾子は、青山優子の水割りのグラスについた水滴を拭いた。このようにするのが綾子の癖になっていた。職業病である。

「綾子さんと話していると、本当に自分が大政治家になったみたいに思えるわ」

「大沢先生みたいに」

「そう」

 青山優子は笑った。水割りはこのように話をしている間に、半分ほど飲み干している。

「でも、最近テレビなんか見ていると大沢先生は少し変わったような気がする」

 菊池綾子は、さりげなく大沢の話に切り替えた。

「そうかな」

「うん、なんだか慌てているような、それでいて何か別な凄みを増したような。そして何か、極端に日本の伝統や文化を違うように感じるけど」

「そうね」

 青山優子はすぐに京都の事件を思い出した。京都の事件の時、青山優子は京都市内のホテルで、支持者との会合をしていた。そしてその会合が終わって、その日の宿泊ホテルに泊まってテレビをつけて初めて京都の都市博で起きたテロ事件を知ったのである。しかし、その時に大沢三郎も京都にいたのだ。いや、青山優子の知る限り、大沢三郎は京都のテロの首謀者の一人であることは間違いがないのである。

「大沢先生もいろいろあるからね」

「京都のテロ事件と関係あるのかしら。ちょうどあの事件のあとくらいから変わったけど」

 このようにして菊池綾子は青山優子から様々なことを聞き出している。一番初めだけは「教えてほしい」と頼んで、大沢に裏切られたという感覚を持った青山優子に話させたが、それ以降は様々な話を菊池綾子が気づかせないようにうまく話させている。青山優子は気が付かないうちにすべての計画を知っている限り話しているのである。

「そうなのよ。大沢先生はそれを話をしてもよい」

「ええ、聞かせて」

宇田川源流

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