小説 No Exist Man 2 (影の存在) 序 足音 3

小説 No Exist Man 2 (影の存在)

序 足音 3


「陛下、お呼びでございますでしょうか」

 東御堂信仁と、嵯峨朝彦は、御所に呼ばれていた。

 京都の古都博覧会において、大沢三郎や在日中国人の陳文便によって天皇暗殺計画があり、それを何とか事前に阻止したのは、数か月前のことであった。天皇は、そのまま会場であった京都府の木津川から奈良県の平城京跡まで移動し、そのうえでそこから装甲車で奈良の駐屯地に移動した。技とヘリコプターなどのダミーを使い、反乱者の攻撃をそちらに向けたやり方は、内閣官房参与であった今田陽子による機転の利いたやり方であったことは間違いがない。このほかに、その天皇の座上下車を運転した荒川義弘、そして、総務省のサイバー対策室の青田博俊などが協力した。これに元自衛官の樋口義明がいたが、樋口はこの時に負傷して入院中である。

 東御堂や嵯峨にしてみれば、天皇を守り補佐するのは、皇族の勤めであり、幼いころからそれを当然のことと教えられてきていた。しかし、彼らがそのように思う程、今田や青田などがそのように動くとは思えなかった。しかし、彼らはよく働いた。樋口が負傷していることから、あまりその後集まるようなことはなかったし、陛下も特段の思し召しはなかった。ある意味で「当然のことをしたまで」という解釈でしなかったかもしれない。

 しかし、先日皇室内の会合があるとき、陛下本人から、直々に呼び出しがあったのである。

「先日はありがとう」

「何のことでございましょう」

 京都の件にしては間が空きすぎている。しかし、そうではないということになれば心当たりはない。陛下に何かお礼を言われるようなことはないのである。

「いや、京都では大変お世話になりました。改めて礼を言います」

「あ、あの件ですか。なかなか大変でしたね」

 東御堂は、とぼけたような言い方になった。さすがに天皇陛下に向かって「間が空きすぎているからわからなかった」とは言えないし、また「臣下なので当然のことをしたまでです」というには、大変すぎたような感じもある。そのように考えれば、さすがの東御堂もどう考えてよいのかわからないという対応でしかなかった。

「本当に苦労を掛けた。」

「お礼の言葉、痛み入ります」

「東御堂さん、そんなにかしこまった対応でなく、親族としてお話しいただいて構わないのですが。」

 陛下は、そのように言うと右手を挙げた。侍従がすぐに反応して、東御堂には焼酎の水割りが、そして嵯峨朝彦にはスコッチウイスキーの水割りが、いずれも少し濃いめに運ばれてきた。そして珍しいことに、陛下自身にもハイボールが運ばれてきた。まだ昼の時間であり、儀式として日本酒をたしなむことはあるが、しかし、公務の時間中に洋酒を飲むのは、陛下の日常としては極めて異例である。

「陛下。公務は」

「今日は、皆さんとお話で終わりです」

「夜のお勤めは」

「祭儀部長に任せてあります。それに、皆さんと一緒に飲まないわけにはいかないでしょう。東御堂さんも嵯峨さんも、飲まないとなかなか口が重たいですから。」

 そこまで聞いて、東御堂はグラスを手に取った。東御堂達に気を使わせないためにグラスを用意させて、そのまま飲まないというようなことをするのかとも思ったが、どうもそうではないようである。これで安心して飲むことができる。

「ところで、東御堂さんと嵯峨さんは、何故私を襲撃する計画を知ることができたのですか」

 グラスを半分くらいあけてから、陛下は二人に質問をした。もちろんそれまでに四方山話ま様々にある。

「陛下、条項陛下から聞いてらっしゃるかわかりませんが。われら旧皇族は陛下のことをお守りし、また、その行動を補佐することがその任務と心得ております。そのために、昔の舎人や衛士などの階級にあったものの子孫が多くわれらのところに来ております。普段は、皆独自に生活をしておりますが、いざとなった時には皆、自分の与えられた役目をもって陛下のお役に立つように鍛えております」

「ふむ」

 陛下は、侍従以外の者をすべて部屋の外に出した。そのうえ部屋を完全に閉じて音も漏れ内容にしたのである。

「その組織は、まだ生きているか」

「はい、もちろん。今回のことで見ていただいたとおりであります」

「しかし、中心人物であった平木さんが亡くなったと聞いたが」

 意外に何でも知っているのが陛下である。いや、実際のところ、陛下のところにも直接情報を持つような組織が存在する。そのうえ、陛下のところには、現在でも「陰陽寮」があり、陰陽師などが入っていて、世の中の未来を予想するような動きもしているのである。もちろん、平安時代の安倍晴明のような非科学的なおまじないもあるが、同時に、コンピューターや情報分析を行って科学的な運用もしているということなのである。当然にそこのニュースの担当者が京都のバーテンダーをやりながら、東御堂の下で情報の仕事をしていた平木正夫が在日北朝鮮の組織に殺されたことなども知っているのに違いない。

「平木の娘の小川洋子が、あとを継いでおります。」

「ほう。娘」

 へいかは、何か不思議そうな感じで声を上げた。こんなに危険な仕事、それも何か特別なメリットがあるような仕事でもない仕事に、若い女性が入ってくるなどということはあまり考えられなかったのである。

「なかなか優秀で、平木の昔の仲間を集めて、組織を再編中でございます」

「なるほど、その動きはすごいなあ」

 陛下は、またそういうと何かを考えるかのように飲み始めた。そしてしばらく誰も話をしないでゆっくりと酒を味わう時間が流れた。普通であれば気まずいという感覚になるのであろうが、実はここに集まっているのは天皇と旧皇族、つまり親族であるだけに、特にこの状態を気まずいという感覚にはなかった。

「それにしても、ここの酒はうまいねえ」

 やっと嵯峨朝彦が声をあげた。

「そうですか、また飲みましょう」

「では、飲んだら・・・・・・」

 東御堂信仁は、そういうと、残りをあけようとした。

「いや、東御堂さん、嵯峨さん、まだ今日の要件は終わっていませんよ」

 陛下は、そういった。

「何か、他に」

「はい、あなた方の情報の仕事を皇室の正式事業にしようと思っています。もちろん、あなた方に今まで通りやっていただくのですが、ちょっとこれからの世の中は、皇室にいる陰陽寮だけではうまくゆきそうにありません。今回、陰陽寮はあそこまでのことになるとは全く予想していなかったのです。そこで、皆さんに宮内庁から予算をつけて、何か事あるごとに報告をいただく形にしようと思っています」

「陛下、それは少し堅苦しいのでは」

 東御堂の反応に、陛下は笑って答えた。

「今まで通りでよいのです。イギリスでは、国立の施設と王立の施設があるのは御存じの通り。日本でも内閣にも警視庁にも複数の公安組織などの情報組織があるのですから、王立の情報組織を作ってもよいと思います。もちろん、映画のように武器が使えるとはかありませんが、独立の情報組織を作って、世界のことを見てゆかなければならないと思います」

 陛下は、そういうと、東御堂と嵯峨に新たな酒を持ってこさせた。

「そのように陛下が言うということは、何か、難しい話が有るのでしょうね」

 嵯峨は、伺うように言った。

「何しろ京都であんな暗殺未遂事件があったのです。当然に、あの国は次の一手を考えてくるでしょう。それに、北朝鮮の金日浩以外は逮捕されていないのです。皆さんの力で、次の手を防がなければ、また新たな犠牲者を出してしまいます。」

「では、今後のことについてもう少し話をしましょうか。」

 三人の密談は、この後も続いた。

宇田川源流

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