「宇田川源流」 西武百貨店のストライキについての雑感

「宇田川源流」 西武百貨店のストライキについての雑感


8月31日、池袋の西武百貨店本店がストを起こし、臨時閉店となった。一方西武百貨店の親会社であるセブン&アイホールディングスは、傘下の「株式会社やそごう・西武」をアメリカの投資ファンドに売却することを決定し、9月1日に売却をした。要するに、西武百貨店のストに関して言えば、西武百貨店の「売却反対」と「売却に伴う従業員の雇用の維持」を求めるということであり、労働条件そのもののの問題でもなければ、会社における対顧客の問題でもないということになる。

このストに関しては、「ストそのものが珍しい」というような状況になっている。「厚生労働省によると、ストを含む労働争議の件数は減少傾向にある。 ピークだった1974年には1万462件あったが、2003年以降は1000件以下で推移し、足元では年300件前後にとどまる。22年の労働争議件数は270件で19年(268件)に次いで過去2番目に少ない水準だった。」と日経新聞では報道されているが、確かにストをあまり見なくなった。

私が高校時代くらいまでは、電車がストで止まってしまい、私のように、電車で通っている中学高校の場合は、その日は学校が休みまたは公欠になったものであるが、残念ながら、最近ではそのようなことはない。当然にそれだけ労働環境がよくなったのか、またはストをしなくてよいくらいに、労働者が裕福なのかといわれれば、そうではない。逆に、働き方改革などで、国が労働者と企業の関係に積極的に介入しなければならないような状態であり、そのうえ、過労死などの問題が社会問題化している状態になっている。一方で、あまり大きくストなどをして団体交渉で労働条件をよくしてしまえば、会社そのものが財政上持たなくなってしまい倒産してしまう可能性もある。つまり、あまり団体交渉をやってしまうと、その雇用元そのものがなくなってしまうというような心配もあるのだ。

要するに「失われた10年」といわれるようになってから、ストは極端に少なくなったということもありまた、顧客や利用者からも、「ストによって信用や支持を得られる」状態ではなくなったということを意味しているのではないか。

なお、あえてここで書いておくが、スト・団体交渉というのは、労働者の正当な権利であり、これは法的にも認められた内容である。そのために、ストを行うことそのものを批判するということはよくない。権利の行使を行うことは、法の下の平等として、当然のことであると考える。そのうえで、今回の西武百貨店のストをどのように考えるのかということを見てみないとならないのではないか。

セブン「そごう・西武」譲渡

セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイHD)は8月31日、傘下の「株式会社そごう・西武」(そごう・西武)の発行済株式の全部を、米投資ファンド「Fortress Investment Group LLC」(フォートレス)の会社に譲渡する覚書を締結したと発表した。同日開催した取締役会で決議した。譲渡実施は9月1日付。

 譲渡実施に伴い、セブン&アイ・フィナンシャルセンター(7FC)は、そごう・西武に対する債権の一部を放棄し、セブン&アイHDから7FCとそごう・西武に対して損失補填を行う。

 「なお、本件譲渡の実施を通じて回収する資本に関しては、キャピタル・リアロケーションプランを踏まえ、当社グループ経営資源の更なる成長分野への再投資等に活用する方針です」とした。

 背景として、そごう・西武について「2023年2月期において4期連続の最終赤字となり、そごう・西武単独での経営改善だけではなく、新たなスポンサーによる支援を含む事業立て直しのための抜本的な改革が避けられない状況」と説明。

 新たなオーナー選定については、複数の候補から慎重に検討を重ねたとし、「そごう・西武の百貨店事業の収益性の改善、そごう・西武自らが保有している不動産の価値最大化を通じたそごう・西武の成長性及び効率性の向上とともに、当社が重視する従業員の雇用の維持の観点にもかなうと判断したフォートレスをベストオーナーとして選定し、2022年11月11日に本件譲渡契約を締結いたしました」とした。

 その後9ヶ月を経て、ステークホルダーから一定の理解が得られたとする。一方でその間、「そごう・西武の『事業の継続』及び『雇用の継続』に最大限配慮したリニューアルプランについてフォートレスに要請した結果、そごう・西武の企業価値について 300億円の減額を行い、フォートレスとの間で合意していた本件譲渡の実施の前提条件の一部を変更すること等、本件譲渡契約の規定の一部を変更する本件覚書の締結を行い、2023年9 月1日に本件譲渡の実施を遂行することを決定いたしました」と報告。

 さらに「本日、そごう・西武労働組合によるストライキが実施されたことは、お客様、地域の皆様、お取引先様、従業員をはじめとするステークホルダーの皆様にご心配、ご迷惑をおかけすることとなり、大変申し訳ないことと考えておりますが、そごう・西武は、今後とも、そごう・西武労働組合との間で団体交渉及び協議を継続するとともに、当社としても、そごう・西武とそごう・西武労働組合との間の協議について適切な範囲で支援・協力してまいります」と伝えた。

2023年08月31日 15時49分ORICON NEWS

https://news.nifty.com/article/economy/economyall/12173-2528773/

 何故ストがなくなったのか。東京新聞などは「日本人が権利を訴える力が少ない」などというが、そのようなことはない。まあ左翼主義者たちの少しおかしなデモ行進などは「権利の濫用」に近いものである。民法第1条3項には「権利の濫用はこれを許さず」とある。「濫用」とは「乱用」とはことなり、本来の権利を逸脱して他の人の権利を不当に侵害する権利の使い方のことを言う。その意味で「乱れる」のではなく「濫」という字を使うのである。さてストライキは「濫用」ではないということになっているので、濫用を正当化する新聞から見れば、物足りないのかもしれないが、実態としては権利の主張はそれほど少ないものではない。

ではなぜ少なくなったのか。一つには企業と労働組合との間で、対抗的な団体交渉よりも、相互が情報を共有し意思疎通と合意形成をはかることを目的とする労使協議が制度化されてきたこと。第二に、非正規労働や委託業者などが多くなってしまい、労働者の組織化が難しいという事。もっと言えば、本社がストライキをしても、下請けがあればそれで回ってしまい、ストライキの意味がないという産業構造の変化ということがある。そのうえ、工場などが海外に進出してしまい、国内のすとらいきだけでは経営陣に関して訴求力を示すことに名はならないということになるのではないか。

要するに産業構造の変化と労使関係の在り方で団体交渉が少なくなったということを意味しているのである。

さて、では今回はなぜできたのか。一つには西武百貨店の産業構造的に「正規従業員」があり、そこが業態変更をしてしまえば、下請け、というかマネキンなどの外部販売員もその職を失うということがある。しかし、一方で、その人々が頑張っていれば、業績が悪化することもなく売却には至らなかった可能性も少なくない。要するに小売業などの場合は「スト」を行っても、その内容は自らのそれまでの業務の評価がよくなかった、または評価されていなかったということに他ならない。

実際に8月31日に、池袋に見に行ったが、多くの人は全く気にしておらず、近くにある東武百貨店などに入っていった。全く混乱はないというのが現状である。逆にストをすることで、他の百貨店に顧客を誘導してしまう可能性があり、あまり効果があったとは思えない。マスコミはそのような実態を全く報じないので、ストの当事者ばかりを映し出すが、実際は顧客の動きを映さなければ意味がないのである。

片方で「権利の実現」であるが、もう片方で「自分の仕事ぶりの評価=自己責任」でしかない。池袋で聞かれた話はそのようなものばかりである。まあ、私からすれば、鈴木敏文氏がいなくなったセブン&アイホールディングスに、大型百貨店の運営は無理であるというような経営がわの問題もあるが、そこまで書くと、長くなってしまうので、その辺はまた別な機会(オンラインサロンの休日コラムなど)で記載することにしよう。

宇田川源流

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