日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 13
日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄
第四章 風の通り道 13
「くそっ」
松原は、嵯峨や東御堂による計画の変更によって、完全に自分の行っていた仕掛けがすべてダメになったことを悟った。そのうえ、そのことを陳文敏に話ても、すでにインカムを捨ててしまった陳文敏には全く通じなかった。
このような時に爆弾のようなテロは非常に無力である。
爆弾というのは、対象者がどこかに来た場合にその威力を発揮する。つまり、「対象者が来るまでずっとタイミングを待つ」ことが重要である。一方、そのように待っていても、そこに対象者がこなければ何の意味もない。ただの無駄玉であるということになってしまう。爆弾というのはそれだけ事前の情報や相手の行動を読み切ることが重要なのである。
今回のように、「最終地点が木津川の河原である」ということが確実であるならば、当然にそこに爆弾を仕掛ければよいし、またうまく仕掛ければ周辺の建物などで妨害もできる。しかし、そもそも全く異なる方向に行ってしまっていては意味がない。そのうえ、木津川の河原などは、もしもここで爆破したとしても、周辺に政府関係者も一般人も全くいないということになるので、ただの「空砲」でしかないということになるのであるから、爆発させても意味がないということになる。地上にヘリコプターが止まり、そのヘリコプターが空中を上昇しても、その爆風によって落とすことが可能なくらいの爆薬というのは、それなりに大きな爆風も必要であるしまた、河原であるということは、その爆弾を爆破させたことによって石や礫が凶器となって周辺の人々を殺すように仕掛けることが可能だ。そのような自然物のほうが、目立たないし、また殺傷能力も高い。しかし、そもそもそこに誰もいかないのであれば意味がないのである。
「陳の野郎は逃げたのか」
松原は、これでは自分の気持ちに収まりがつかない。自分の車の中には、このようなこともあろうかと予備の爆弾が2個入っていた。
「一人でもやるか」
松原は、天皇を乗せた車を追いかけて平城京に向かった。別に自爆するつもりなどは全くないし、また、自分が捕まるなどということは思っていない。しかし、ヘリコプターのように、不安定に空中に浮いているものに関しては、爆風など気流の変化や、下からの石や礫の襲撃によっても落ちる可能性がある。そして、空中に浮くものは、そうやって落ちるだけでかなりの確率で相手を殺すことができる。そのために旅客機やヘリコプターを狙うテロは少なくないのである。
「陳さん、中止ですか」
陳文敏の携帯電話に電話が入った。大沢三郎である。
大沢三郎は、京都の会合をすべて青山優子に任せて、自分はこちらに来ていた。すでに何人か殺している自分の秘書などを連れ最終的には天皇陛下を救出するようなふりをして殺すつもりであった。そのために、木津川の河原と国道の間くらいに待機していたのだ。。
「大沢さんか。だいたい、こんなにすべての計画が漏れているようじゃ、うまくいかないよ」
「それは誰が漏らしたのかな」
「そんなの、日本人に決まっているだろう」
陳文敏は不満そうに言った。
「そんなはずはない。中国人のほうがすぐに人を裏切るし、北朝鮮などを混ぜたのも失敗かもしれない」
この時点でも、大沢三郎にとっては、自分の戸外であり愛人でもある青山優子が、東御堂などへの情報の漏洩元であるとは考えていなかった。逆に言えば、菊池綾子などによる情報収集は完璧であったということになろう。やはり情報は女性と酒が一番であり、特に女性同士の情報の伝達、いわゆる口コミに関してはなかなかその情報伝達に関して第三者からはわかりにくいのである。
「まあ、この機会でなくても、また次の機会に狙えばよいよ」
「陳さん、では」
「私は中国に帰るよ」
「中国に、東京ではなくて」
大沢は何か違和感を感じた。
「そりゃそうだ。大沢さん。次の機会、つまり、中国は今回のことで李首相を殺された国になる。そしてその加害者は日本だ。その中国政府の要人を守れなかったのであれば、単なる過失であるが、日本政府が人を雇って殺したとなれば、それは国ぐるみの暗殺になるでしょう。そうなれば、中国は日本に宣戦布告をすることができますし、東京に核ミサイルを落とすこともできるのです。その口実を使えば、別に、今回天皇を殺す必要はないし、そもそも中国人民解放軍が日本を占領すればそれでよいことなのです。」
陳文敏は、当たり前のことのように言った。
「いやいや、陳さん。そんなことをしたら私の家族などもみな死んでしまうではないか」
「いやいや、だからこうやって先に教えているのです。少なくとも東京から離れるようにしてください。」
「何を言っているんだ。天皇を殺す・・・」
「天皇を殺すということは、当然に日本を弱体化させるということ、そして日本を弱体化させるのは、中国が日本を占領するためでしょう。大沢さん。あなたが日本を支配するのは、中国の一つの省として、その省長に任命するということで十分ではないですか。私はその準備があるから、早めに中国に帰りますよ。」
「なにを・・・・・・」
「大沢さん。では今から、大沢さんは陳文便と一緒に天皇を殺す予定であったと告白しますか。そんなことをすれば、大沢さん、あなた自身が犯罪者になるし国家反逆の汚名を受けることになりますよ。また、陳文敏がその首謀者だと主張しても、何故そのことを知ったというようになるのでしょうか。そして知っていたのに、何故そのことを先に警察に言わなかったということになるでしょう。何しろ、警察はすでに知っていて先に手をまわしている。つまり、私や大沢さんがその相談をしていたことがすでにばれているかもしれないし、また、今は知らなくてもすぐにわかることになるでしょう。そうなれば天皇を助けても意味がないということになってしまいますよ。そんなことよりも、この混乱している間に日本を離れて、早めに準備をするべきでしょう。大沢さん、あなたも早めに準備することをお勧めしますよ」
「陳さん」
「私は忠告しましたからね」
そういうと陳文敏は一方的に電話を切った。
大沢は、自分が陳文便を利用しているつもりで、自分が利用されていたということを初めて知ったのだ。当然にこのように協力してきたのであるから、少なくとも中国共産党の傀儡であったとしても日本の政権をとることができると思っていたのである。しかし、そもそも日本という国がなければそのようなことはできないのだ。
しかし、そのことをいまさら気づいても、そのことを告白することができないのは、陳文敏が電話で言っていたとおりである。本来であれば、陳文敏とともに、中国に行くということもありうる。し菓子そのようなことをすれば、自分が首謀者であると告白しているようなものである。とはいえ、今は阿川首相の時代であり野党である自分にマスコミが靡くとは思えない。警察などが気付かないにしても、誰かがこのことを出して大沢自身に責任を追及するようになるであろう。
まさに四面楚歌とはこのことなのである。
「陳・・・・・・。」
大沢は、そういうと平城京朱雀門跡に向かった。
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