日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 9

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 9


「大友さんですね」

 樋口は必ず大友がここに現れると思っていた。

「樋口」

 樋口義明の後ろでは、荒川が天皇陛下と東御堂信彦を宮内庁の装甲車に乗せているところであった。

「天皇、無事だったのか。大津さんも金もしくじったのか」

 もちろん、ここで仕留められないことは予定のうちであった。その為に、この駐車場でも、また帰りの道でも、そして最後には逃げる場所でも、何段階にも仕掛けがあった。そして、もしも天皇を先に撃っても、阿川首相や中国の李首相など、その標的は少なくなかったので、決して無駄になるようなものではなかったのである。

 しかし、既に舞台の上、そして駐車場と二段目まで破られているとは思わなかった。そう言えば部隊の横で中国人が倒れていて、中国語が切羽詰まったような状況で聞こえていた。つまり、一段目では、中国の李首相はうまくやったのであろう。つまり一段目で天皇は無理であったが、標的の一つは仕留めたということになる。それをやったのは、大津なのか金なのかはわからない。いずれにせよ、京都にいる勢力である大津と金日浩が結果を残したことはたしかだ。

 さて二段目の駐車場は、その金と大津の残りに、松原がここに向かってくるはずだ。しかし、ここに松原の姿はない。もちろん、姿を現さなければならないというものではない。しかし、駐車場は日本紅旗革命団が明かされているところなのである。京都の連中に負けるわけにはいかない。このように段階を分けてやるのは、いくつもの仕掛けができて相手を確実に討ち果たすことができるということと、その仕掛けの責任者同士、責任団体同士が競うようになり、うまく結果が残せるようになるのである。

「大友さん、あなたのような愛国の士がどうして反日左翼や、中国人や北朝鮮人と一緒にテロリストなんかになっているんですか」

「そんなもん」

 大友は、真面目な樋口の表情を見てすっかり笑ってしまった。自衛隊に入隊してアフリカにわたると決まった時に、市ヶ谷の防衛省本部の講堂で大友自身が愛国心を解いた。まさにその愛国心を自分が樋口に言われるとは思ってもみなかったのだ。そして、そのように話している樋口は、しっかりと自分と天皇陛下の車の間に身体を置いている。大友が天皇陛下に向かって何かの行動を起こすには、樋口を倒さなければならない。しっかりと自衛隊の護衛の基本をやっている。

「樋口、愛国心って一体なんだ」

「国を愛する事でしょう。そしてその国を国を愛する人皆で守ることではないでしょうか」

「おい、ではその国の上層部に腐った人間がいたらどうする」

「今の政治またあ天皇陛下が腐っているといいたいのですか」

 樋口も、しっかりと大友に反論した。

「ああ、腐っている。いや、政治が腐っているのかもしれない。本来ならば敵国であったアメリカに盲従し、同盟などと言って軍隊もないくせに軍事同盟のつもりで動いて自己満足をしている。そうやって国民をだましているのではないか。そしてそのような政治を正義として政治を任せている天皇も同罪だろう。その結果どうなった。世界は平和になったか。いや、大戦以降既に70年以上たっていながら、一年として戦争や内紛が世界からなくなった年があったか。そのような争いばかりの世の中に、日本が一枚かんでいるんだ。それをしっかりと直さなきゃならないだろう。樋口。」

「大友さん、あなたは自衛隊の心得、いや、軍人の心得をしっかり私に教えてくれたでしょう。上官に、そして国に忠実にあれ。今の大友さんの話は、国に忠実なのでしょうか」

 樋口は、大友の動きに合わせて少し体をずらした。

「樋口、正義は一つしかない」

「いや、大友さん、民主主義で選んだ首相ですよ。国民がその政治を選んだんです。では最後には政治を選んだ国民をすべて殺すというのでしょうか」

「民衆は騙されている」

「大友さん、自分が騙されていないと言えるのでしょうか」

 大友は、そこで黙ってしまった。たしかにそうだ。民主主義の話いなれば、結局その政権を選んだ国民すべてを殺さなければ正義を実現できないということになる。しかし、国民に対してならばだまされているという話で何とかなる。しかし、国民が騙されているということならば、逆に自分も騙されている可能性がある。

 実際にアフリカで接触したオランダ人はスパイであった。そしてそのスパイは、大友を日本から裏切らせてそのままテロリスト集団に売ると、いくらかの金をもらって姿を消したのだ。それは、オランダ人の人間がテロリスト、いやアフリカの国々の反政府の人々に雇われて二重スパイになっていただけの話ではないのか。

 大友は、そのことを封印していた。自分ではそのようなことを思わないようにしていた。しかし、このように樋口に言われてしまえば、その答えは出てこない。自分で考えていないことは答えることはできない。適当なことを言って樋口をだますことはできても、大友佳彦自分自身をだますことはできないのである。

「大友、避けろ」

 横から声がかかり、そのままなにかはこのようなものが投げられた。大友はその声に弾かれるように横に飛んだ。そして樋口もすぐに横に飛んだ。その箱は下に落ちる前に爆発した。松原隆志の投げた箱は爆弾だった。しかし、その横に富んだ瞬間に大友は天皇に向かって銃を放った。

「あっ」

 樋口はすぐに身をひるがえすと、すぐに大友の方に向かった。さすがにこれ以上は話などはしていられない。

「陛下、ご無事ですか」

 宮内庁の車は、防弾仕様である。アメリカの大統領が乗る車よりも、日本の天皇の公用車の方が安全と言えるような代物である。東御堂信彦は樋口が時間を稼いでいる間に扉を閉め。天皇を安全な所に置き、そして自分自身が天皇の身代わりになってわざと外に立った。そのようにして自分がわざと囮になって天皇を守るつもりなのである。

 天皇陛下の周辺というのは、基本的には戦うことはない。天皇が戦争中であれば、天皇が敵としている相手に対して戦うのが使命であるが、そうではない場合には基本的には最低限しか戦わない。いや防衛以外はしないということになるのかもしれない。

 そもそも公家というのは、天皇が国に対して行うこと、政治や戦争をすべて補佐するのが役目であり、そして、その内容を皇族がしっかりと統括する。政治の場または戦場において、皇族は天皇の代わりになり、そして公家はそれを天皇と同じように補佐する。それが神武天皇以来の皇族と公家の役目なのである。そして東御堂信仁は、まさに、その慣わしに従って天皇の身代わりになったのである。

「東御堂さん」

 嵯峨朝彦のいるバスからこちらに移動していた荒川は、東御堂に近寄った。東御堂は肩を討たれて福から血が出ていたが、それほどの重傷であるようには見えなかった。

「荒川君、運転を。私が前に乗ろう」

「はい」

 いつの間に仕掛けたのか、駐車場に止まっている車が次々と爆発した。

「しばらくこのままでいなさい」

 天皇は、車を制した。

「陛下」

 荒川は、まさか天皇が声を出すとは思っていなかった。

「爆発が激しい特に出れば、狙われる。逆に、爆発は爆炎と煙で我々を隠してくれるし、我々が死んだのではないかというように敵が錯覚する。その爆発が終えて、一呼吸置いたところで、車を一気に出すのだ。」

「はい。しかし」

「この車ならば、これくらいの爆発ならば大丈夫だよ」

 東御堂信彦は、肩を抑えながらそう言ってわらった。

宇田川源流

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