日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 4

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 4

 青木優子は、、京都市内のホテルにいた。立憲新生党の関西支部の人々との会合に出席していたのである。

「大沢先生は何故来れないのかな」

「誠に申し訳ございません。大沢先生は、他の大事な打ち合わせがありますので、私が代理で参りました。」

「要するに、我々は、大沢先生にとっては他の人よりも大事ではないっちゅうこっちゃ」

 元々大沢三郎の地盤は東北地方である。関西の方はあまり強い人番ではない。こちらの方に地盤があるのは立憲新生党の中でも大沢三郎とはあまり親しくない派閥の人々ばかりであった。そのようなことも含めて大沢三郎が関西に来るということで「物珍しさ」から集まった人が少なくない状態なのである。

 そのうえ青木優子も東京出身である。大沢三郎は、テレビなどでは有名な政治家であるかもしれないが、しかし、関西ではローカル番組が少なくないために、東京ほどの知名度ではないのである。そのように考えれば、関西における大沢三郎は「立憲新生党の中の敵対派閥の領袖」というような感覚ではあり、与党の阿川首相などよりははるかに良い感覚を持っているものの、同じ立憲新生党の中ではあまり良い印象は持たれていなかった。

 もともと良い印象を持たれていなかったにも関わらず、その会合に大沢三郎自身が来ないで、参加者はかなり不機嫌であることは否めない。そこに「大沢の愛人」と言われた青木が「代理」としてきたのだから、その不機嫌は貯店に達していたのに違いない。

「そんなことは言わないでください。大沢先生は日本のために……」

「要するに、我々と話をするのは日本国のためにはならないし、日本国民の意見を聞くことにならないということか」

「いえ、そんなことを言っているわけではありません。」

 もともと「立憲党」と「新生党」が合併して「立憲新生党」になったという歴史がある。元々革新系の議員が集まった立憲党と、保守系の政党から分離した新生党が入ってきた感じである。元々の革新系の人々にとっては、大沢三郎が革新系の生乙を乗っ取りに来たように見えていた。その意味で「新生党の票をもらってい利用しながら権力を持たせたくない」というような本音も見え隠れする。

「じゃあ、何で大沢先生は来ないんかなあ」

「まあ、口で何言っても、態度は我々関西の有権者を軽視しているということだろう」

 会合の中の一人が、スマホの写真を見せた。そこには京都祇園の料亭「叢雲」に入っていく大沢三郎の写真が映されていた。その後には、松原隆志や陳文敏などが写り込んでいる。「ほら、青木のおネエチャン先生よ。大先生は、料亭で芸者遊びをするのが、大事な打ち合わせなのかい」

「これは」

 青木優子は何も言えなかった。いや、はっきり言えば、この嫌味な言葉にも反論することができなかったといっても過言ではない。その写真の中に松原や陳がいるということは、まさに「天皇陛下暗殺に関する具体的な打ち合わせ」をしているということに他ならないのである。そして、何よりもそこに写っている松原のにやけた顔が、自分を犯した時と全く変わらず、吐き気がしたのである。

「何も言えないだろう」

「何もって・・・・・・」

「要するに大沢三郎大先生は、芸者が大事で・・・・・・。」

 まさかここで、天皇陛下暗殺の話などをすることはできない。しかし、このままでは大沢三郎の評判が落ちてしまう。嫌、大沢の評判が落ちてしまうのは別に構わない。しかし、その時に一緒に来た自分の評判も落ちてしまいかねないのである。

「噂では岩田智也先生も自殺じゃなかったといわれているじゃないか」

「そうそう、大沢先生が何か秘密があって口封じをしたとか」

「そう言えば、大沢先生の悪口を言っていたなあ。何だから大沢先生は天皇陛下の暗殺を企てているとか。まさか革新系の人でも具体的に天皇陛下の暗殺を企てるような人はいないからねえ。」

「そうですよ、日本は法治国家ですからね。」

 口サガのない革新系の支持者たちは、そのようなことを口々に言った。青木優子自身も、岩田智也が大沢三郎に殺されたということを疑っている。いや、ある意味で強く疑う根拠があるといっても過言ではない。しかし、そのことをここで言うわけにもいかないではないか。

「青木先生は、大沢先生からベッドの上で天皇陛下を暗殺するなんて聞いてないのですかねえ」

「いや、それならばこんなところに来ないでしょう。もう捨てられたんですよ」

「そうか」

 一同は下品な笑い声をしていた。立憲新生党の派閥の仲があまり良くないことは知っていたが、末端の組織にまで来ると、ここまでおかしくなっているとは、さすがに思わなかった。青木優子にとっては、自分を政治の道に引き込んでくれた大沢三郎は、間違いなく人生の恩人であることは間違いがない。今までは、大沢三郎が何か間違えていると思っても、それは、大沢三郎の深い考えがあり、それが、日本人にとって衝撃的なことであっても、それが結局は日本のためになるのではないかというような感覚があった。

 しかし、天皇陛下暗殺の事はどうしても日本のためになるとは思えなかったし、また、そのことを非難した岩田智也を殺したことはさすがにショックでもあった。しかし、それでも何か大きな事があったに違いないと思っていたのである。あのような扱いを受けても、心のどこかに大沢三郎を恩人と思い、また、自分を裏切るはずがないというような自身が青木優子の中にはあった。そして自分は理不尽な扱いを受けているのも、何か、それが日本国の役に立つことなんだと思っていたのである。

 しかし、さすがに今日のこの写真では言い訳はできる状態ではない。このように逡巡している間にも、口嵯峨のない、革新系の有権者たちは口々に大沢を非難していた。そして、青木自身自分が間違っていたのではないかというような気がしていたのである。

「天皇暗殺の件は・・・・・・」

 青木優子は、重たい口を開いた。本の小さい、独り言のような言葉であったが、そのことばで、会場は水を打ったように静かになった。

「て、天皇暗殺の件は、本当です」

「ええっ」

「まさか、冗談でしょう」

 革新系の人々は、驚きと信じられないというような表情で、そのことばを聞いた。「

「岩田を殺したのは、大沢だと思います。そして、その原因は天皇陛下を暗殺することが事実だからではないかと、私は考えています」

 今度は独り言ではなく、はっきりと大声で言った。

「本当かよ」

 周囲は、何か信じられないような表情になり、また、大沢を詰るような言葉は聞かれなくなった。

「はっきり言いまして、ここでこのようなことを言えば、私は岩田智也君のように殺されるかもしれません。しかし、多分今回の京都における建物のイベントで大沢は天皇陛下の暗殺を実行するのではないかと思います。どのような計画課は具体的にはわかりません。私は、その関係ではないというか、一度聞かされていましたが、冗談だと思ったので全く耳を貸さなかったのです。そのことから、計画からは外されています。しかし、今大沢が皆さんよりも優先しているのは、その天皇陛下暗殺の計画に関する会合であると思います。本日の会合の結果どのようになるのか、私には全くわかりませんが、その結果は、皆さんが明後日のセレモニーを見ていただいて決めていただけたらよいと思います。これだけお話して、まだ、大沢が皆さんを大事に扱っていないとか、そう言うように思うのでしょうか。実際に、大沢はそのようにして中国人の陳文敏さんと一緒に、何か新しいことをしようとしているようです。ただ、私にはそのことが、本当とも思えず、また、そのように天皇陛下を暗殺することが、正しいことであるとは思えないのです。」

 革新系の人々は、そこまでの青木優子の演説を聞いて、静まり返り、そしていつしか拍手を送っていた。

宇田川源流

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