日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第四章 風の通り道 1

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第四章 風の通り道 1

 明後日に開会式が開催されるというときになり、荒川、樋口、菊池は京都に出向いていた。今田陽子は、阿川首相と、そして東御堂信仁と嵯峨朝彦は、天皇と同行するということになったのである。志士て青田博俊は、東京の総務省で全ての情報を入手していた。今回は、内閣官房の特別な内容から、各人工衛星まで全て繋いでいるために、青田としては、最も楽しい内容になっていたのではないか。

「爆弾は」

 樋口義明は、この日までイベント会場の建築現場にアルバイトとして入っていた。元受けに入ってしまうと、身元がばれてしまうので、わざわざ、ホームレスに化けてその中に混ざって仕事をしていたのである。もちろん爆弾を探すためであるのと同時に、この会場に先に入って、狙撃できる場所や避難経路を探っていたのである。

「最後に、元受け会社が全ての作業員を締め出して、点検をしていた。その時にどこかに仕掛けたのだと思う。もちろん、探ろうとしたが、その後に中に入れなくなっていてな」

「そうか、出もだいたいどこに仕掛けるかわかるだろう」

 荒川は、問い詰めた。樋口ならば、自分であればどこに爆弾を仕掛けて効率的にしとめるかということをしっかりと考えるはずである。その観点が仕えることが、樋口が作業員に入ったもうひとつの理由である。

「そうだな、それは爆弾で殺そうとするか、あるいは爆弾によってどこかに誘導して、そのうえで、狙撃などで殺そうとするのかという考えによって違うな」

「なるほど」

「爆弾で殺すつもりならば、舞台そのものに仕掛け、その隣の高い建物を舞台側に倒して追い打ちをかける。しかし、そんなに単純なものではないだろう」

 樋口は、図面を広げながら言った。

 この図面は、観客や参加者に配られている地図が一つと、もう一つには、工事業者が使う青写真が両方広げられている。樋口は青写真の方で説明していた。

「青田さん」

 菊池は、スマホでその会話を録画し、そのまま青田に送っていた。

「はい、菊池さん、聞こえますよ。樋口さんの今の内容であれば、75%の確率で舞台上の人は死ぬことになります。その場合、舞台の下と、横のレンガ造りの塔の一階舞台側の柱に本を破壊するということになります」

 樋口の言葉に合わせて、青写真から建物強度などをはかり、そのうえで、その確率をはじき出している。

「では、狙撃の場合は」

 樋口と荒川の会話は、ずっと続いている。その結果、爆弾はかなり広範囲に仕掛けられ得ている可能性が高く、なおかつ、それが、用途や目的に応じて順次爆発するということになる。

「では、狙撃はとにかく、どこから襲ってくる。」

「私ならば、ルートは二つ。一つは正面から客を薙ぎたおして来るか、あるいは部隊の後ろ側。ここは、楽屋代わりにバスなどがとまり、駐車場などになっているので、自動車で入りやすい上に、舞台裏は、装飾できるように全て薄い板でできているので、銃弾も貫通して襲撃しやすくできている」

「なるほどね」

「青田です。その場合、入口の警備員を殺さなければならないということになります。当日は天皇陛下も阿川首相もいるので、警備は厳重であり、東京の警視庁や皇宮警察も入ることになると思いますが」

「確かに、その辺は樋口さん、どうなのでしょう」

「基本的に装甲車のようなモノであれば、突破できるし、また、その時は部隊が爆破しているので、警察の多くは舞台側に入り、侵入者に対しては背中を向けているものと想定されます。」

「なるほどね。青田さん」

「そうですね、行動シミュレーションをしてみれば、そのようになり、防御は手薄になると思われます。」

「では、青田さんから、今田さんにその点を報告し、守衛室に装甲車を二台以上配置願うようにお願いしてください」

 荒川の指示はしっかりとしていた。青田はすぐにその内容をメールで発信している。

「さて、狙いは、」

「多分、阿川首相も、天皇陛下も、そして中国の李首相も全てでしょう」

「では警護対象は」

「我々は、天皇陛下だけです。余裕があった時にほかを警護しましょう」

 荒川が話しをまとめた。しかし、曽於祖も三人しかいないのである。何ができるのであろうか。それでも三人はなんとなく明るい表情をしていた。

「私は何をしたらよいですか」

 小川洋子が口を開いた。平木正夫の子供である。一応チームに入っているが、嵯峨朝彦からは現場に出さないように指示が出ている。

「いや、ここで・・・・・・。」

「何を言っているのですか。何か役目をください」

 小川の目は真剣なまなざしであった。その場ではしばらく沈黙が続いた。

 ここで小川を現場に連れて行ってしまって、その場で事故でもあったら、平木の血筋が途絶えてしまう。もちろんそれほどの家柄ではないかもしれないが、しかし、今回の事件の中においては小川はまだこの組織に慣れているわけではない。はっきり言って素人である。そのような素人に、手伝わせるわけにはいかない。

 しかし、一方でここで待てと言っても、絶対に現場に来てしまう。それでは本末転倒であろう。

「荒川さん」

 コンピューターの中で青田が声を上げた。

「なんですか」

「避難所の警備をお願いしましょう」

「避難所」

「はい、要するに、事件があった場合、天皇や阿川首相をお守りしながら案内する避難所です」

 今回は木津川の会場であった。その会場からまずは要人を逃がさなければならない。一時的には、木津川河原を使い、その後、近くにある精華町町役場を経由して、近くの大学の構内からヘリコプターで逃がすという事を考えていた。

「その木津川の河原で、自動車を用意していただいてはいかがでしょうか」

 小川洋子は、青田の話を聞いて頷いた。

「よし、そのラインでお願いしよう。」

「はい。」

「では明日にそなえて。」

 その頃、京都八条の「紅花」では、別なメンバーが集まっていた。

宇田川源流

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