日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第三章 月夜の足跡 12

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第三章 月夜の足跡 12

「秋の国体に天皇陛下が出席するらしいの。そこに合わせて京都の建物の博覧会があるそうなのよ」

 菊池綾子は、四谷の事務所に来て力説していた。

「秋の国体に合わせて古代京都環境研究会を行うという話が入ってきていたわ。中国の首脳も複数出席する方向で調整中ということなの」

 今田陽子もその情報に裏打ちをした。今田陽子はその研究会に政府を代表して出席している。様々な事情が分かっているのである。

 嵯峨は黙って目をつぶってその話を聞いていた。たまに目を開くと、目の前に小川洋子の姿が目に入る。小川洋子に関してはこの前日に東御堂信仁から連絡があり、一度有ったのちにこの事務所に連れてきた。本当に平木正夫の娘かどうかは、嵯峨朝彦には全くわからないし、またそもそも今回の件があるまで嵯峨には、平木のような存在が京都にあることも知らなかったのだ。要するに、ここに小川洋子が初めて参加しているのも東御堂の信用の上に成り立っている。

「要するに、その建物の博覧会の会場か、その前後行程の中で、陛下を狙うということか」

 荒川は、京都市内の地図を見ながらそのようなことを言った。

「狙うにしても、広すぎるし、また、その手段もよくわからない」

 青田博俊は、コンピューターをいじりながら、頭を抱えた。

「樋口君はどうおもう」

「爆弾でしょう」

「爆弾」

「はい」

 嵯峨の問いに、樋口は即答した。

「何故そう思う」

「まず第一は、松原隆志が行うという場合は、数カ月前の皇居と財務相の二か所爆破、荒れ卯が予行演習になっていると思います。また、松原隆志ではなかったとして、北朝鮮の奴らがやったとしても博多地下鉄爆破事件のような状況になるでしょう」

「たしかに、しかし、ここにいる小川洋子の父、平木はナイフで刺されているし、また高い建物が多いという場合は、狙撃ということもある」

 荒川が口を出した。

「ナイフなどの接近の手段は、整然と隊列ができ、天皇陛下の護衛がある場合は、さすがに難しいでしょう。もしもあるとすれば、爆弾などで隊列が乱れたときに、近寄ってナイフなどで刺すということはじゅうぶんにかんがえられますが、それでも難しいでしょう。ナイフなどの内容は、実行人数が少なく、なおかつ移動手段などの間で、単独になることが少なくない場合に使う手段ですから、天皇陛下のように常に周囲に警備がいて、なおかつ。どこを歩く時も道をあけて通す場合は、ナイフなどの接近型の暗殺手段はないと思われます。要するに、爆弾などで隊列が乱れ、天皇陛下が一人で移動しなければならないときに、近寄って行うという、予備手段として持っていると考えるべきで、メインではないと思われます」

「なるほど、専門家はそのように考えるのか。では、遠距離からの狙撃は」

 嵯峨は、興味深そうに聞いた。

「これに関しては地形を見てみないと何とも言えませんが、京都の場合、地形に起伏の少ない平地構造で、そこに中層階の建物が多くあるという状態です。そのうえで、建物の環境博覧会があるということは、旗が立ったり、何か看板が出来たり、特別なブースや屋台なども出る可能性があります。そのように考えた場合、現在下見をして狙撃が可能でも、その時になったら人の流れも変わりますし、また、建物の概要も変わります。ましてや中層階が多いということは、高い所から角度をつけて狙撃をするのではなく、それら障害物の影響をウケるということになりますから、やはり確実性が下がります。ナイフよりは成功する可能性がありますが、それでもうまくゆかないでしょう。もう一つは狙撃の銃というのは、後継が大きいとぶれが生じますから、口径のそれほど大きくない銃を使うということになるので、そのことから、風の影響なども受けます。そして、当たる場所によっては死に至らないで助かってしまうということがありますから、狙撃は基本的には、近寄れない場合でなおかつ失敗しても他の方法が残されているときに使うということになると思われます」

「ようするに、狙撃は使わないということか」

「いえ、狙撃の場合は音などが出るということと、打たれた場合、瞬間に人の動きが止まります。ある意味でその場で伏せるというような形になりますから、皆の動きが止まります。その時に何か他の事を行うというのがセオリーです。公表はされていませんが、ケネディ大統領暗殺でも、おずわるごが撃った後、他の者が撃っています。要するに、音を立てて警戒させ、動かなくさせたところで確実に仕留めるというのが一つのやり方なのです」

 そこにいる者は、皆顔を見合わせた。樋口などに狙われたら、とてもではない。では、その樋口と共に戦っていた大友という者はどのようなことになるのであろうか。

「樋口君、君が一緒にいた大友というのは、それくらい考える者かな」

「はい。自衛隊でアフリカに派遣されるときに、そのようなレクチャーを受けております。そしてその内容を行かしてテロ集団の中に入っていましたから、私よりもうまくやるでしょう。」

「厄介だな」

「では、狙撃の腕は」

 荒川は嵯峨が腕を組んでいる間に話をした。

「元々狙撃は落ち着いたて待つことのできる人物でなければ適正がありません。大友は、その適正はかけていましたから、基本的には狙撃は他の者が行うでしょう。」

「樋口さんが、松原や大友の立場にいたらどのようにしますか」

 今田陽子は、やはり政府の人間のような冷静さで話をした。今田陽子にしてみれば、自分が狙われる対象である。このイベントそのものの実行委員会にいるということは、当然に、今田自刃がその場にいることを意味している。つまり、下手をすれば、自分の死に方を聞いているのに近い。

「はい、基本的には移動中または会場の中において、天皇陛下周辺の者を狙撃で射殺。そして、その場に伏せて動かなくなったところで爆破。それでも確実に仕留めなかった時に、近寄って刺殺というような形になろうかと」

 樋口は、ごく当たり前のことを言っているように言った。

「爆破は初めに仕掛けておくの」

「いや、多分福岡の地下鉄爆破を見てわかるように、近くにガスや爆発可燃物がある場所ん、爆弾を近付けて、誘爆させる方法をとると思います。その方が拡大被害があるだけでなく、その可燃物が広がる場所であればどこに爆破をしても誘爆します。その意味で確実に爆破をすることができます。」

 荒川は、どうにもならないというように首を横に振った。

 その横で青田はコンピューターを使って京都の、天皇が動くと思われる場所の近くのガス管やガソリンスタンドなど検索した。

「要するに、私はその要注意の場所に何が運ばれるかを観察したらよいでしょうか」

 小川洋子が声を出した。

「うむ、本当は平木の言う通り、巻き込みたくはないが。今回はお願いしようか」

「はい」

「無理をするなよ」

「わかりました。父のように死ぬのが最も迷惑をかけることになることはよく存じております」

宇田川源流

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