日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第二章 日の陰り 14

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第二章 日の陰り 14


「何が起きた」

 荒川がテレビのニュース速報を見て叫んだ。東京四谷の嵯峨のオフィスで、荒川義弘がテレビを見ている。この日も国会中継を見ながらソファーに身を任せていた。普段はそのまま見るでもなく見ないでもなく、よほどの発言などがあった場合に、少し眼鏡を傾けてテレビを凝視するだけであった。しかし、この日は一回目のニュース速報を見て、身体を前に起こした。

 通常テレビのニュース速報というのは、少し時間をおいて2回、全く同じ内容が画面上部に文字で表示される。荒川が叫んだ時には、既に一回目のニュース速報が消えてしまい、樋口義明やたまたま来ていた青田博俊が画面をのぞき込んだ時には、何事もなかったかのように国会中継になっていた。

 そのすぐ後に、二回目のニュース速報が、一回目と全く同じ文面で流れた。「福岡の地下鉄が爆発。道路崩落。死者・行方不明者多数の模様」と書かれている。

「なんだ」

 青田は、すぐに自分のコンピューターを立ち上げると、パスワードを打ち込んで、自分の職場である総務省のサーバーに接続した。

「ここで、国会中継を中断し、ニュース速報です」

 テレビは、国会中継を中断して、比較的冷静な男性アナウンサーが無感情な声を発した。青田はコンピューターをそのままにしながら、テレビの方に身を遷した。

「先ほど、午前11時25分ごろ、福岡県福岡市の市営地下鉄が地下鉄構内で爆発炎上し、緊急停車いたしました。事故を起こした車両は祇園博多間を走行中に地下鉄の車両が火災を起こし、その後、爆発炎上したということのようです。なお、その爆発の影響で、トンネルが崩落し、上部の道路が陥没したという話も伝わってきていますが、その崩落の影響の・・・・・・。」

 凄い事故だな、荒川はそう思った。しかし、この間に、テレビでは新たな原稿がアナウンサーに手渡され、アナウンサーが明らかに動揺している表情が見て取れた。本来ならば、このような事故に対して冷静に伝えることができるはずのアナウンサーが、明らかに原稿を見て動揺し、そこに書かれている文字を読むことを躊躇しているということが見て取れた。その姿を見て、荒川はただならぬ自体であることだけは理解した。

「失礼いたしました。改めて初めから申し上げます。」

 ここでアナウンサーはテレビ画面の中で深呼吸をして自分を落ち着けている。

「午前11時25分ごろ、福岡県福岡市の市営地下鉄が地下鉄構内で爆発炎上し、緊急停車いたしました。事故を起こした車両は複数あり、どの車両も地下鉄構内で炎上し、そのうえで爆発を起こし、その上部構造やトンネルが崩落し、道路や上部構造物が崩落しているという情報が入っております。炎上、爆発した車両は、祇園博多駅間、天神赤坂間、大濠公園唐人町間、中洲呉服町間、の四か所で各一編成ずつという情報が入ってきています。福岡市営地下鉄は全線臨時に全車両を止め、駅構内から救助半を除く全人員を避難させているということです。また道路も陥没をしているために、地下鉄の通る道路はすべて通行止めになっております。」

 極めて冷静を装いながら、テレビのアナウンサーはここまで原稿を読み終え、あまり見ない光景であるがハンカチを取り出して額の汗をぬぐった。

「すごいなあ」

 樋口はそういった。

「いや、四か所同時などと言うことはありうるのであろうか」

「原理的にはあり得ない話ではない。」

 青田が、コンピューターの画面を見ながら言った。

「どういうことだ」

「要するに変電所の電圧が以上に上がってしまい、旧型の車両だけ電圧の上昇に耐えられなくなって、エンジンというかモーターが可燃爆発するということはある。この場合、祇園から天神にかけてに、事故が集中している、つまり、その地区の変電所が急に過電圧になるようなことになれば、このような事故が発生することになる。ということかな。もちろん、時限爆弾などによる同時テロも考えられるが、あまりにも同じ時刻すぎる気がする。」

 青田は、画面上にある内容を読み上げている。多分総務省から警察または福岡県警や国土交通省のサーバーに入り、その内容を見ているのであろう。

「それでは、福岡放送局のヘリコプター映像を見てみましょう」

 テレビは、福岡市庁の混乱した場面から、福岡市上空のヘリコプター映像に切り替わった。ちょうど天神の商店街の辺りであろうか、平日であっても比較的多くの人出があったようだが、その真ん中の辺りに、ぽっかりと大きな穴が開き、自動車と路線バスがその穴に落ちていた。穴はその二台が斜めに落ちるほどの大きさで、その穴の中心からは、穴の下にあるトンネルと思われる場所からの煙が上っている。そのような中、穴に落ちてしまったバスの後ろ側の窓から、ちょうど通学途中であったのではないかと思われる女子高生を、近隣の人々が縄などを使って救助している姿が、望遠で写された。

「穴が大きいなあ」

「ああ、爆弾ではああはならないだろう」

 樋口は、元自衛官だけあって、穴の大きさから爆発の規模やその威力を計っているようである。

「爆弾ではない」

「ああ、あれくらいの爆発を起こすということは、トマホーク級のミサイルが爆発しなければならないだろう。つまり、手荷物で地下鉄に持ち込むような大きさの爆弾では基本的には不可能ということになる。まあ、都市伝説的に言われているアタッシュケース型原爆でもあれば別かもしれないが、そのようなものが爆発するというのはよほどの技術になる。つまり、基本的には今青田君が言ったように、編成のモーターが全て過電圧で爆発をした、つまり、車両全体が爆発して、そこになんらかの可燃物が再爆発したというような感覚の方が正しいかもしれない」

「なんらかの可燃物とは何だ」

「例えば、ガス管。地下鉄は天然ガスのガス管が通った後に、地下鉄を通しているから、地下鉄が爆発し、そのショックでガス管に亀裂が入り、そのガス管に引火して二次的な大爆発を大下ということになればあのような大きな穴になると思うのだが、どうだろう」

 樋口は、二次被害説を言い始めた。

「ようするにてろではない、ということか」

 テレビでは、別な場所にヘリコプターが移っている。そこでも大きな穴があり、樋口の言うようにガス管が引火しているのか、アスファルトの下で炎が出ていることが画面に映った。上に乗ってしまったスポーツカーと思われる車両もガソリンに引火したのか、火を噴いている。中にいる人は助かったのか、あるいはあの火の中に入ってしまっているのか。

 荒川は、電話を取った。

「嵯峨殿下」

「何があった。新幹線の中のニュースが大変なことになっているぞ」

 新幹線の中で今田陽子と共に東京に戻って来る途中である。その為に会話は短くなる。

「福岡市営地下鉄で爆発です」

「事故か」

「わかりません」

 樋口も青田も、少なくとも爆発そのものはテロではないといっているのに、荒川はあえてわからないと保留した。

「死者は」

「それも不明です」

「わかったら知らせてくれ」

 新幹線の中で、水割りを飲んでいるのかかなり酔った声であることは間違いがない。まあ、こののち判明したころに電話をしても酩酊しているのではないか。

「荒川さんは、何でわからないと」

「変電所の過電圧が事故かテロかわからないからね」

「そうですね、調べてみましょう」

 青田は、そう言うと九州電力のホームページを開いた。

宇田川源流

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