日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第一章 朝焼け 18

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第一章 朝焼け 18


「樋口という男はどんな男だ」

 嵯峨朝彦たちが樋口と大友佳彦について話しているのと同じように、松原と大沢は大友を呼んで話をしとぃた。

「なかなか優秀ですよ。」

 大友佳彦は、目の前にある酢豚を口にしながら言った。

「優秀ってどんな感じだ」

「いや、ある意味で模範的な自衛隊員ですよ」

 大友は、少なくとも「規律正しい」自衛隊員であるというような感覚はなく、どちらかといえば、中堅どころの暴力団のような感じで、くしゃくしゃに潰れたたばこケースから、曲がった煙草を取り出して火をつけた。

「それはどういう意味だ」

「まあ、俺みたいに正義で動くのではなく、国際的な感覚もなく、結局何だかわからないが、上官の命令に従い専守防衛を法律通りにやることにおいて優秀な男です。また、そのような官僚的な資質が高いから、まあ、部下にも信望がある。しかし、まあ、自衛隊においてはいいが軍隊となれば、軍が独自に判断しなきゃなんないだろ。自衛隊はあくまでも政治の下にいる間はいいが、軍が独立して軍政を敷き、軍事法廷で物事を考えるようになったら、政治の顔色を見ながら動かしている間は話にならないでしょう」

「本当にそうなんですよ。日本人は全くそのことをわかっていません」

 恰幅の良い男が入ってきた。陳文敏である。

 ここは、六本木飯倉片町奉天苑である。

「おう、陳さん。久しぶりだなあ」」

 大沢三郎や松原を差しおいて、大友佳彦は立って朕に握手を求めに行った。

「ウイグルで会ってから、少し時間が経ちましたね」

「ああ、そうだ。いやあの時は助かったよ」

「いえいえ、また会えて光栄です」

 陳は全く笑わない目でそう言うと、大友を自分の席につかせた。

「陳さん、こちらの大友さんとは知り合いでしたか」

 大沢は、まさか自分が知らないところで、自衛隊を除隊された男と陳文敏が何かで一緒であったということに意外性を感じた。はっきり言ってあまり気持ちの良い物ではない。なんでも自分が中心でなければ気が済まない大沢は、自分が知らないところで何かやっていることはうれしくないのである。しかし、ここはやはり中国の陳の話である氏、また、どうやらウイグルの話であろうから、我慢するしかなかった。

「大友、何があったんだ」

 松原も知らないと気が済まない性格なのか、あるいは大沢の雰囲気を察してか、大友に松原は陳との関係を聞いた。

「いや、チュニジアでモフタールのテロの軍に入った後、しばらくモフタールの所で活動していたのだが、モフタールの本部がフランスに空爆にあってしまってな。それで、モフタールが大けがをしてしばらく動けなくなったんだ。」

「モフタールは死んだのでは」

 大沢三郎はさすがに政治家だけあって、政治における公式発表はよく知っている。数年前の話であるが、北アフリカのテロリストであるベルモフタールは、フランス軍の空爆にあって、本部近くの車の中で爆死したということになっている。その後、本部を急襲したフランス軍によって、遺体は確認できなかったものの、ベルモフタールのいつも乗っている車と、その車の近くに、いつも肌身離さずにベルモフタールが持っていた護身用と思われる拳銃がその場に捨てられていた。フランス軍は、遺体はうう縛の際に爆発して四散したか、あるいは、焼け焦げたものと判断し、遺体未確認のままベルモフタールの死亡を発表したのである。これに対してベルモフタールの擁するテロリスト集団も、全く何も言わなかったので、そのまま死んだことになっている。多分、世界中の人々の大半は、死んだという報道を信じているのではないか。

「あれは、モフタールの愛用の拳銃が空爆の後にそこに残っていたというだけの話でしょう。本当に死んだのならば、そこに落ちている血液のDNA検査でも何でもすればよいではないですか。そのようなことをせずに死んだという報道はおかしいでしょう。当然に検査に来た者とモフタールの間で何らかの連絡があったのでしょう。まあ、モフタールは生きているのですが、それでもさすがに空爆で瀕死の重傷とのことでしたし、うちの部下の日本人も何人か死んでしまって、結局、そのあと傭兵として様々な所に行ったのですよ。ISとかチェチェンとか、アルシャバブとかね」

「ほう」

 松原は、何か楽しそうであった。この男は、「人を殺す」とか「体制に反対する」ということには、何か血が騒ぐ性癖があるのかもしれない。生まれながらに残虐な性癖の男はいるが、この松原という男はその中の一人なのであろう。

「それで、仲間も徐々に少なくなって、最後は、何故かわからんが中国人民解放軍のテロ制圧部隊の傭兵をやってたんだ。しかし、ウイグル族の連中はなかなか強くてね、それで取り囲まれたときに助けてくれたのが陳さんなんだよ。」

「ははは、そう何ですよ、大沢さん。私も彼らに言ったのです。日本人を殺しても解放軍は止まらないし、日本からの援助も来なくなりますとね。そうしたら、彼らだけ包囲を解いてもらって抜けることができたんですよ。いや、ちょっと話しただけなんですがね、そのまま大友さんは1カ月私の家にいたんですよ。なかなかウイグル人のテロが終わらなくて、仕方なくこちらに来ていただいて、うちの家の警備をお願いしたんです」

 陳が話始めると、それで話しを収めるしかない。大沢は、あまり飲めないのにかかわらず、目の前の中国酒を一気に飲み干した。

「ところで陳さん、京都の話はどうなりました」

「ああ、皆さん、京都から連絡がありました。今から調整するのですが、今年の年末くらいに天皇が京都に来るらしいです」

「徐さんからの情報ですか」

 大沢の質問に、陳は得意満面の笑顔で頷いた。

「では、大友さんは、まず東京、出来れば、皇居を相手にテロを起こしてくれるか」

 松原はそういった。

「なるほど。京都に天皇が行くというのがわかっているのに、その前に東京を狙うというのは陽動作戦か」

「さすが国際的テロリストの大友さんだね。その通り、出来れば仕掛けや狙撃など何種類かの方法でやってもらいたい。そうすれば、京都に行くときに、東京に残さなければならないだろう。」

 松原はそのようなことを言って煙草に火をつけた。

「ああ、ということは天皇がどこかに出かけたときに何かやればいいんだな」

「そうだな、そうすれば京都に行くというときになって、建物の警備を増やさなければならないだろう。それに本当の狙いが京都だということも見えなくなってくる。政府というのは思いのほかバカだからな」

「私たちが協力しましょう。何か必要なものがあれば、準備します」

 陳が口を挟んだ。

「ついでに、民主自由党の阿川もやってくれ」

「大沢さん、それは別料金ですよ。」

 松原は笑いながら言った。松原と大沢はいつの間にか中が良くなている。もちろん、本人同士の間では、青山優子を「共有」してから関係が良くなったことをよくわかっているのであるが、しかし、さすがにここでそのようなことは言えるはずがない。

「それじゃあ早速、爆発させて良い4トントラックを一つ」

「4トン」

 陳は驚いた。

「それとアメリカ製のC4を」

「中国のモノではだめか」

「ああ、奴らは火薬の灰でどの爆弾かすぐにわかる。天皇をアメリカが狙っているという感覚を持ってもらった方がいい。ロシアや中国では、あまり面白くないからな」

「わかりました。一週間以内に4トントラックの荷台にアメリカ製のC4を満載してお渡ししましょう」

 陳は、一瞬言葉に詰まったが、またすぐに笑顔に戻った。

宇田川源流

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