「宇田川源流」【大河ドラマ 青天を衝け】いよいよ最終回を迎えたところで「最もドラマとして重要な事」が語られた名作

「宇田川源流」【大河ドラマ 青天を衝け】いよいよ最終回を迎えたところで「最もドラマとして重要な事」が語られた名作


 毎週水曜日は大河ドラマ「青天を衝け」について、私の思うところを書いている。今回はその最終回になる。何しろ「青天を衝け」あが最終回を迎えてしまったのであるから、来週というか来年は「鎌倉殿の13人」について書かないとならない感じなのではないか。そのように考えた場合、なんとなく寂しい感じもしないでもない。

 それにしても今回の「青天を衝け」は野心作ではなかったか。「幕末物は流行らない」「戦争がないと視聴率が落ちる」などというような話があり、実際に「八重の桜」などでは会津戦争が終わった瞬間に、視聴率が激減してしまうというような「実績」がある中で、ほとんど戦争を描かないドラマを作ったのだ。それも「武将」「志士」ではなく「経済人」を主人公にしたドラマということになる。かなり苦労したに違いない。

 そのような中で、今回の「青天を衝け」では、非常に工夫したドラマ作りが起こなわれている。もちろん、史実そのものを曲げてしまうようなことはなかったし、重要なエピソードはほとんど入っていたと思う。しかし、その重要なエピソードそのものの解釈や感じ方、描き方全てを「経済人」としての渋沢栄一の考え方の中で昇華させ、そして渋沢栄一の「成長」という形で、考え方の変化を入れさせてゆくという物語仕立てである。歴史小説やドラマを作るにあたり、ある意味で「模範的」ともいえる素晴らしい作りだ。

 その上「人間渋沢栄一」ということをうまく描いた。激情型で、影響されやすい。それでいて人情味があって涙もろい、使命感に燃えながらも家族を愛した(ここは史実とは少し違ってもっと広く女性を愛したような気がするが)家庭人としての渋沢栄一を描くことに時間をなるべく割き、そのうえで、「政治」「経済」「世の中の流れ」の変化をうまく表現した感じである。

 見ていた人は、自分も同じ時代の中を生きているような「没入感」を感じることができ、そして同じ景色を見なあら感動をできるようなテンポの良い作り。そしてその中で、視聴者を飽きさせない笑いや動きを作るということが素晴らしいドラマである。

 幕末物語を書くにあたって「坂本龍馬」、函館戦争をかきながら「榎本武揚」、民権運動をかきながら「板垣退助」を全く書かないという手法も斬新であるし、途中、なくなってゆく人が「ナレーション」だけでなく「新聞の文字」だけで死ぬというのもなかなか面白い。「老兵は死なず」という言葉は、この時代の数十年跡であるが、歴史において役割を失って姿を消すということは、こういうことなのであろうと感じるものでもあった。

NHK大河「青天を衝け」最終回 栄一の激走締め 徳川家康「いやぁ~寂しい限りだ」SNSでも惜しむ声

12/26(日)スポーツ報知

 俳優の吉沢亮が実業家の渋沢栄一を演じたNHK大河ドラマ「青天を衝け」の最終回「青春はつづく」が26日放送され、2月14日からスタートした物語が41回で完結した。

 13歳から91歳までを演じた吉沢も、再婚相手・兼子(大島優子)もすっかり白髪姿に。ツイッターのトレンドに「老けメイク」がランクインするほどのリアルさだった。栄一は亡くなる間際も、手を握る兼子に「(自分が)死んだら教えてくれよ」と冗談を飛ばすなど、いつものまま(公式ツイッターによるとほぼ実話)。孫の渋沢敬三(笠松将)が語るテイストで栄一の最期の様子が描かれた。

 亡くなる3日前に残したメッセージも紹介された。「長い間お世話になりました。百歳までも生きて働きたいと思っておりましたが、今度こそは立ち上がれそうにもありません。これは病気のせいであり、私のせいではありません。死後も、私は皆さんの事業や健康をお守りしますので、どうか今後とも他人行儀にはしてくださらないようお願い申します」。まさに大往生だ。

 やはり最後まで残ったのは徳川家康(北大路欣也)だった。この日の放送では、初回の時と同じように冒頭に登場。「いやぁ~今日で終わりとは寂しい限りだ。もっともっとこの目で見ていたい」と残念がった。毎回ではないものの、コンスタントに出演。徳川家を時に叱咤激励し、ねぎらう。徳川幕府が結んだ安政の不平等条約については知らんぷり。文句なしに主要キャストで、番組躍進の立役者だった。

 ラストシーンは両親や妻の千代(橋本愛)、慶喜(草ナギ剛)らに呼びかけられ、カメラに向かって激走した。冒頭の北大路家康の「皆さんに感じていただきたいことがある。彼らの切り開いた道の先を歩んでいるのは、あなた方ということを…」という言葉を思い出す。だから栄一はこちら(視聴者)に向かって走ったのだ。

 SNSでは「明日から何を楽しみにすれば…」と寂しがる声が続出している。記者も今年から局担当になり、今作で始めた当コラム。10か月を総括する言葉がどうにも浮かんでこない…。これが“青天ロス”なのだと思う。(NHK担当・浦本将樹)

https://news.yahoo.co.jp/articles/35111e0e8ff4499831c7cf3c58aa6f6eaf1b318e

 今回の最終回で様々な部分で感動できるところがあったのではないか。しかし、歴史ドラマ、歴史小説を見て、または読むにあたって、最も重要なことは、冒頭の徳川家康の言葉にあったのではないか。

 「皆さんに感じていただきたいことがある。彼らの切り開いた道の先を歩んでいるのは、あなた方ということを…」<上記より抜粋>

 まさにこの言葉が最高の言葉であろう。歴史というのは事実がある。しかし、その歴史的な事実というのは、その時代やその人によって解釈は全く異なるものであるといえる。つまり、その解釈の違いというのは、「生きている環境や生活のリズムなどによって同じ内容でも感じ方が異なる」ということである。当然に渋沢栄一の一生は変わることはない。しかし、戦争中、戦後、バブル期、そして平成、令和と時代が移り変わってその一生に対する解釈は全く異なる者であろう。そしてその解釈が変わってきたというのも一つの歴史であり、また、その歴史を超えて、現代のわれわれがいる。そしてその我々の解釈を超えた先に「未来の歴史」が広がるのであろう。つまり、歴史を見ることは、その見ている世界の先に自分たちがいるということであり、また、今生きている人々が次の歴史を作るという自覚ではないか。

 そしてその「偉人」を表す言葉としては、やはり、このドラマの二つの演説が、最も素晴らしい内容になっている。

 一つ目は、渋沢栄一のラジオの演説である。その演説も、実は二部構成になっている。脚本の大森美香さんの力作であろう。途中から埼玉県血洗島出身の農民の言葉になる。まさに、「青春のまま」そして「父や母に教えられた言葉のまま」の言葉が、そのまま国民に語り掛ける言葉に入っている。

 「大丈夫だい。私が言いたいことはちっとも難しいことではありません。手を取り合いましょう。困っている人がいれば助け合いましょう。人は人を思いやる心を。誰かが苦しめば胸が痛み、誰かが救われれば温かくなる心を当たりまえに持っている。助け合うんだ。仲よくすんべぇ。」

 まさに、この言葉が、渋沢栄一をドラマにした41回の「青天を衝け」のすべてではないか。そしてその言葉の奥底、魂の中には、渋沢敬三の言葉が、驚くほどうまく表現されているのである。

 「祖父には、この程度で満足とか、ここまでやれば十分だなどと力を惜しむことが、少しもなかったように思います。常にもっと国をよくしたいと、もっと人を守りたいと、そればかりを考えて生きていたように思います。」「偉人という響きはどうも祖父には似合いません。みなさんには祖父の失敗したこと、かなわなかったことも全て含んで、『おつかれさん』と『よく励んだ』とそんなふうに渋沢栄一を思い出していただきたい。」

 この渋沢恵三の演説は、まさに、「偉人」という存在は、実は自分たちと同じ人であり、同じ日本人であるということ、そして、その「普通の人」が、ちょっと「国をよくしたい、もっと人を守りたい」と欲を出し、そしてそのように考えて生きてきて、そして、失敗したこと、かなわなかったことも含めて、すべてが「偉人」という中に含まれているのかもしれない。

 日本人は、常にこうあるべき、そして、どんな苦境の時でも、また変革の時でも、このような生き方をすれば、そして日本国民が、このような心掛けで、生きていれば、日本という国は良い国になる。みんなが幸せになる。

 そのことが、今の日本人に最も訴え痛かったメッセージではないかと思う。そんな思いのこもった、名作の大河ドラマではなかったか。これを演じきった吉沢亮さん、そのほかのキャストの皆さん、スタッフの皆さんは、本当に素晴らしいと思う。また、これからドラマを作る人、また、ドラマを目指す各地の人々は、このような「現代の人に何を訴えるか」ということを、もう一度見つめなおしてもらいたいという、お手本のようなドラマではなかったかと思う。本当に見てよかった。

 さて来年は鎌倉殿の13人である。次はどんなメッセージがあるのか。非常に楽しみである。

宇田川源流

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