「日曜小説」 マンホールの中で 4 第三章 7
「日曜小説」 マンホールの中で 4
第三章 7
「次郎吉さんは、ここに何回か来たことがあるんですかい」
スネークは慣れた手つきで、そこの部屋の中にある机や家具を動かしている次郎吉に尋ねた。
「ああ、昔、時田さんや善之助の爺さんと一緒になって、東山将軍の隠した財宝を狙ったことがあってな。その時に、その資料を見に来るといってここには何回か忍び込んでいるんだ」
次郎吉は、そういうと、動かした家具の後ろにあったレバーを引いた。ほぼ直角に倒されたレバーはむなしく倒れただけで何も動かない。スネークは耳を澄ましていたが、何か鍵が開くようなカチリというような音も何もしないのである。
「次郎吉さん、何も音がしませんぜ」
「スネークさん、あなたはだからダメなんですよ。東山将軍との知恵比べには勝てませんよ」
次郎吉は笑うと、その倒したレバーの奥に手を入れた。ちょうど肩の高さにあるレバーであるから中が見やすい。しかし、一見何もないところに手を入れているようにしか見えない。しばらくすると、次郎吉は少し大きめの、古い、よく古いイラストで書かれるような鍵を出した。
「スネークさん。実はレバーはただの飾り。しかし、多くの人はそのレバーが大事に隠してあれば、そのレバーを引くことで何かが起きると勘違いしてしまう。しかし、本当はそうではない。そのレバーを引いた後のレバーの奥が最も大きな問題になる。しかし、レバーで何かが起きると思ってしまっている人々は、その最も近くにある鍵が見えないんです。東山将軍という人は、どうもそのような人間の真理に漢詩て詳しかったようで、そのようなトリックを可なりさまざまな場面で使う人のようですた。」
次郎吉はそう言いながら鍵を取り出すと、金庫を開けた。金庫は前に入った二人が開けたのか、またはもともと開いていたのか、何もせずに扉があいた。次郎吉はその金庫の奥に手をやると、そこを強くたたいた。すると、そこが二重の壁になっていて、その奥にカギ穴が出てきたのである。
次郎吉は、一度スネークの方に目を向けると、そこに先ほどのカギを差し込んで鍵を回した。
「おお、すごい」
元々洞窟をくりぬいたような部屋であったが、その部屋を出た正面の岩が崩れ、そこに鉄の扉が出現した。鉄の扉は、金庫の中のカギで連動していたのか、自然と手前に開くような構造になっていた。
「これが東山将軍という人なんですよ」
次郎吉は、その部屋の中に入った。
「これは図書館みたいだな」
「はい」
広さにして畳八畳ほどの部屋に、大きな机があり、そして両側と奥に本棚がびっしりと詰まっている。そして正面の上には、昭和天皇の御真影といわれる写真と日本の国旗が飾られている。いかにも旧日本軍の将校の部屋であるかのような作りであった。
「机を探しましょう」
「ああ」
机を見ると、その中には、重要そうに書かれているノートがあり、そして、その横に何本かのアンプルと日本の注射器が置いてあった。
「これは。虫下しと書いてある」
スネークはさすがに笑った。
「虫下しですか。いやいや、要するに昔の将軍は、これが帰省中であるということを知っていたし、その寄生虫を排除する虫下しもしっかりと持っていたということか。幹部や重要な人物に寄生虫が入ってしまった場合、この注射で虫を身体から外すようにすればよいということになるのだな」
「ああ、完全に手遅れではない、まあ、ゾンビに噛まれたすぐ後ならばなんとかなるということか。いやいや、緑の煙といい、虫下しといい、まあ、本当に準備周到な人だな。それにしても何でこれだけの人物がいながら、日本は戦争に負けたのだろうな」
次郎吉も首をひねった。
「さて、暗号の解読法だ」
机をごそごそ探していると、その中に他のノートなども多くあった。
「貴重な資料だ。これを持って帰るか」
「そうだな」
「あとこの虫下し。これを」
次郎吉は、背負っていたバックの中に、虫下しの包んでいる風呂敷ごと全てを入れた。そして、その横にあったもう一つの風呂敷包みも入れた。その風呂敷包みも、何かアンプルが入っていたが、しかし、そこには虫下しとは書いていなかった。ただカタカナでキケンとだけ書かれていたのである。次郎吉はしかしこのままここに危険と書いた物を置いておけば、郷田や正木に持っていかれてしまうと思い、そのままそれもカバンの中に入れた。
「さて、帰るか」
「ああ」
入口の方を見ると、二人の話し声に反応したのか、ゾンビが数体近づいてきている。スネークは慌てて銃を構えた。しかし、次郎吉はその銃をおろすように指示した。
「いや、どうせならばこれを試してみよう」
そういうと、次郎吉は、鉄パイプの手榴弾の中から黒い線の入ったものを持ち、そして安全ピンを外して投げた。
八畳の部屋の入口のあたりに落ちた手榴弾は、緑色の煙を勢いよく掃き出し、その煙に巻かれたゾンビたちは、そのままバタバタと倒れていった。ちょうど、操り人形のひもが切れたような感じでそのままそこで全ての力が抜けたような感じなのである。
「次郎吉さん、跡に三本ありますよ」
「ああ、持っていきましょう」
ススネークと次郎吉はそういうと、その中のものをすべて持って、洞窟になっている地下壕を後にした。
「よくやってくれましたな」
時田は無事に帰ってきた二人を見て目を細めた。
「おお、次郎吉もしっかりと帰ってきたようだの」
一緒にいた善之助も、なんとなく嬉しそうであった。
「それにしても虫下しのアンプルがあるとはおどろきだの。細菌ではサナダムシとかギョウチュウとか、そういったものがいなくなって、虫下しなんぞ全く見なくなってしまったから、虫下しは懐かしいよ。まあ、あれを飲むのは苦くて嫌いだったがな」
善之助は嬉しそうに言った。
「善之助さんは何を言っているのか」
小林の婆さんも昔を懐かしむように言った。ゾンビが出てきてから全く日常の生活ではないのに、この二人は元々浮世離れをしているからか、それともこの鼠の国の居心地がよくて慣れてしまったのかすっかりここの住人となってくつろいでいる。
「それにしても、注射で投与する虫下しなんてあったんですね」
時田も古いことは知っているはずであるが、それでもわからないからかそんな話を聞いた。
「いや、日本ではなかったと思う。それでも、私の父が言っていたが、昔進駐軍はそんなの持っていたといっていたな。我々がジャングルに行ったり、あまり開発されていないところに行くときに、ワクチン注射を打つような感じで、虫下しがあったようなことを聞いたことがある」
「なるほどね。それならば、善之助さん。一つお願いがあるのですが」
「ほう、私でできることかな」
「いや、善之助さんでなければできないことです。この虫下しをドローンを飛ばして、警察署に届けますので、中身を研究して増産できるかどうか確かめて欲しいというように頼んでいただけないでしょうか」
「ほう、なるほどな。虫下しを多く作って人を救おうというのだな」
「はい」
「わかった。電話をつないでくれますかな」
電話の向こうはかなりひっ迫している状況であった。しかし、善之助がそのことを言うと、警察署署長も協力することを約束してくれた。
「あと、ついでに追い払うことのできる緑の煙が出るものを送るから、それも研究してくだされ」
「はい」
電話は切られた。
時田は手榴弾を一つと、アンプルを一つドローンに積み込むと、ドローンを飛ばした。
「あとは解読だな」
「それはお任せします。あたしらは少し疲れたんで休ませてもらいますよ」
次郎吉はそういうと、応接室を後にした。
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