「日曜小説」 マンホールの中で 4 第三章 1
「日曜小説」 マンホールの中で 4
第三章 1
鼠の国は盛り上がっていた。
「いやいや、ご苦労さん」
パトカーを置いて一足先に帰ってきた時田たちは、鼠の国の入り口、といっても元々の抜け道を使ったので、マンホールのふたの下で待っていてくれた。
次郎吉や五右衛門、スネークは郷田が残るバス会社を暫く見た後、自分たちを追いかけてくる気配がないことを確認して、それから安全を確保したうえでその場を後にした。最も安全が確保できている来た道を戻り、そして八幡山の山頂にある八幡神社に戻り、その後、拝殿の下の配管からマンホールを抜けてきたのである。その間、ゾンビもそして郷田連合の手下も誰もいなかったのである。スネークは一応自分たちが着た痕跡を消し、そして、もしも追撃があった場合の仕掛けまでして戻ってきていた。それだけに皆安心して返ってくることができたのである。
「資料は取れていますか」
資料とはもちろん、郷田の持っていた戦中に東山将軍の資料である。現在のゾンビの内容を解消する状況であった。
「ああ、ばっちり取れているよ。何しろ、次郎吉さんのスマホから送信されてこっちまで送られてきているから中身はすべて大丈夫だった。
マンホールのふたをしっかりと閉め、ゾンビなどが入ってこれないようにして、時田は、近くにいるものに、ここから誰も入らないように警備を命じると、皆が待つ会議室に向かった。
「おお、次郎吉。無事であったか」
目が見えていないはずの善之助が真っ先に声をかけた。
「爺さん、俺のことがわかるのか」
「目が見えないと、音には敏感になるからな。君の足音で、すぐにわかるようになっている。まあ、何回も家に忍び込まれているから、聞きなれた音だがな」
「なるほど」
時田はさすがに笑うしかなかった。小林の婆さんも斎藤も会議室に待っていた。戸田は、さすがに敵前逃亡したのが恥ずかしかったのか、会議室には来ないで、コンピュータールームでパトカーを先導しているということである。無線で動くパトカーのおかげで、ゾンビを全く気にしないでなんとなかった。
「いや、ゾンビとハサミは使いようだよ」
ランボーが嬉しそうに言った。
「どういうことですか」
次郎吉は、追われないように帰ってきているので、時田たちのその後のことはわかっていない。
「時田さんは、そのままゾンビをけしかけただけでなく、無線のパトカーを裏に回して、ゾンビを誘導してたんです。そのことから、スネークさんが壊した扉からゾンビが入って、郷田の一味は次郎吉さんたちを追いかけることができなかったみたいです」
時田は、ゾンビをけしかけることによって、注意を引くだけではなく、そのまま追手が来ないようにしていたのである。
「いや、なかなかすごいじゃないですか」
「まあ、郷田の所はゾンビを終わらせる術を知っているはずだからちょっとくらいは良いのではないかと思ってね」
時田はそういった。
「ところで、画面の解析はできたか」
時田は内線電話で言うと、自分の机に座った。
壁がまた開き、そして画面が出てきた。
「だいたい解析ができました」
「言ってみろ」
「はい、それがどうも朝日山の山頂に洞窟があって・・・・・・」
「そんなものはいい」
時田も次郎吉も、そこがどのような所か知っていた。いや、そもそも「東山資金」と都市伝説で言われていた、ここで、郷田や正木に襲われたのである。
「その中に司令官室があって、そこの棚の横に<破滅>と書いた装置を起動させるとあるのですが、その図とかそういうものはなく、それ以上の情報はないのです」
「破滅の装置か」
善之助はため息交じりに言った。
「いや、確かにありましたね」
善之助の隣にいた斎藤が言った。
「斎藤さん、ありましたか」
時田は、丁寧に聞いた、ちょうど郷田に襲われていた時であったために、時田はその記憶はなかった。
「はい、東山将軍の机と思われるところの横に」
「で、それを作動させるとどうなるのだ」
時田は不機嫌そうに言った。
「わかりません」
インターホンのスピーカーからは、妙に明るい声が聞こえた。
「他のページを見てもわからないのか」
「はい」
「もう一度よく調べろ。何か暗号化か何かで書いてある可能性もあるから、お前らだけじゃなく、他にも見せろ」
「はい」
「それと、今ゾンビになてしまった人を助ける方法はないか見付けろ」
「わかりました」
そういうと、時田はインターフォンを切った。
「それで、バス会社はどうなったのですか」
次郎吉は興味深そうに聞いた。
「見るか」
時田はまた机の上のスイッチを押した。
「これは」
「どうなってる」
善之助は見えないのでその内容の話を聞いた。
「バス会社がゾンビに占領されているんですよ」
誰も何も言えない状態の中で小林の婆さんが、何事もなかったかのように話をした。
「占領、中の者はどうなった」
時田は、壁にかかった画面を、五右衛門が会議室などに仕掛けたカメラに切り替えた。ボタン一つを押すと、画面が9分割になり、その中でバス会社の中が映し出された。
「これは」
会議室の中では、何人もの人がそこにいた。ゾンビの姿はそこにはなかった。一方、郷田の部屋の方は全く何もない状態で、真ん中で郷田は寝ていた。その手には、あの書類が握られていた。
さすがに次郎吉の仕事である。全く跡を残していないどころか、本人がなぜそこで寝ていたのかもわからない状態であったに違いない。
もう一度会議室の別な角度のカメラを見れば、敷地の入り口にゾンビが入らないように並べてあったバスは、ゾンビによって動かされ、既に壊されていた。一台のバスは、真横に倒されていて、ゾンビがバスの上に乗っていた。多分、庭や敷地内、バスの中などで護衛に回っていた若い者は、皆ゾンビに殺されてしまっていたのかもしれない。またゾンビになってしまっている可能性もあるのだ。しかし、ゾンビは、脳が寄生虫に食べられているということになる。そのことから脳がなかなかうまく動いていない。高層の建物の上に人がいるなどということはあまり考えなかったのかもしれないのである。
ゾンビは、敷地内には多くいたものの、あまり建物の中に入ることはなかった。
「正木さん、郷田さんは」
「きっと大丈夫だろう」
会議室の中で、正木は若者たちを指揮して階段などに配置していた。
「郷田さんを助けに行った方が良いでしょうか」
「いや、正人が一緒にいるはずだろう」
「そうでしょうか」
正木はそういいながらも何となく不安になっていた。建物の外はゾンビであふれている。このまま囲まれたままならば、どうにもならないに違いない。
「そういえば、正木さん」
奥の部屋から若い女性が一人出てきた。
「なんだ」
「郷田さんが、何かあればこれを投げろと」
ちょうど手榴弾のような形の円筒形のものが握られていた。
「自殺用の爆弾じゃないだろうな」
若い女性は怖がり、早く手を放したいと思いながらも、落としたりしたら爆発するかもしれない。そんな女性を見て正木はその筒を受け取った。
「まあ、何か指示があるんだろう」
「あの筒なんでしょうね」
画面のこちら側では斎藤が時田に話しかけた。時田はすぐにインターフォンを繋ぎ、その筒に関する資料がないかを探すように命じていた。
「あれが何かのカギかもしれないな」
次郎吉は、見ながらそれを呟いた。
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