「日曜小説」 マンホールの中で 4 第二章 11


「日曜小説」 マンホールの中で 4

第二章 11


 次郎吉は誰にも見られることなく、バス会社の裏に来ることができた。

「えらく警戒が厳重だな」

 次郎吉は、見て呟いた。

「どうして警戒が厳重とわかるんですか」

 スネークは普通に疑問に思った。裏山の上から見ても、何も見えない。少し高い壁が障壁であるかのように見えるだけで、何も変わったところはない。警備員などの人もほとんどいないので簡単に入り込めそうだ。

「そう思うだろ」

 次郎吉は、近くにある枝、それも葉が2,3枚ついている枝を拾って、高い壁の上に向かって投げた。

「あっ」

 壁の上に張ってある鉄線に引っ掛かると、いきなり電流が流れているのかバチバチと火花を散らせた。そして壁の四隅にあるカメラが動き出し、そちらに向かってライトを当てた。それどころか、建物や監視塔のカメラが壁の外や裏山に向かってライトを当て、ドローンが二台飛んできた。

「伏せろ」

 反射的にドローンを撃ち落とそうといたスネークに、次郎吉は厳しい声を出した。五右衛門と三人は、そのまま茂みの中に身を隠した。ドローンは何事もなかったように通り過ぎた。

「何故落とさない」

「落としたらここに人がいることがばれてしまうだろ」

 次郎吉は、そういうとポケットからオペラグラスを取り出した。

「全く隙がありませんね」

「どうする」

 五右衛門は、そういうと、全く別な方向を見た。町側の道路である。五右衛門はマンホールを見ていた。

「五右衛門さん、マンホールから中に入るにしても、中の見取り図がないと敵の中に入ってしまう。そのうえ、書類は高い階にあるだろうから、大変だろう」

「次郎吉さん、そんなこと言っても」

「いや、上が電線ならばこうすればいいんだよ」

 スネークはそういうと、そこからライフルで電線を狙い、引き金を引いた。サイレンサーを付けたライフルは、そのまま高い塀の電線を撃ちぬくと、その後ろのカメラのレンズまで壊した。

「銃で撃てばばれるだろう」

「いやこれ見てくださいよ」

 五右衛門はスネークの方を見て驚いた。そこにあったのは薬莢の先にどんぐりが詰められていたのである。

「どんぐりで電線を斬るのか」

 次郎吉はそういうと、呆れた顔でスネークを見た。

「風が吹けばどんぐりも飛ぶでしょう」

 そういうとスネークはそのまま何発か、ライフルを撃った。どんぐりは確実に電線を斬っていた。

「さて、じゃあ、こっちに行きましょうか」

 スネークはそういうと切った壁に向かわずに、別な方向に向かった。

「何故切ったところから入らないのだ」

「切れていることがばれれば、当然に、そこを警戒するでしょう。先ほどのドローンもあるし。それならば他の入り口を探すのが当然でしょう。」

 スネークはそういいうと次郎吉と五右衛門を先導して、建物に向かって右の方に動いた。暫くすると、ドローンが何機か、先ほど次郎吉がいた方に飛んで行く。それだけでなく、壁の上の方を見ている。

「風でも吹いたのか」

「どんぐりだな」

 様子を見に来た男たちが大声で語っている。手には皆銃を持っている。さすが暴力団の構成員だ。

「本当だ、どんぐりだな。まあ、この施設も古いからな」

「さっきも枝が飛んできていたし。兄貴に言わないと」

 枝やどんぐりを拾い集めながら、男たちは言った。

「どうする、ここ」

「そうだな、このままじゃ、両横のカメラしか動いていないからな」

 二人は常に周りに気遣っている。残りの男たちがどんぐりを拾ったり、何かしている。その上をドローンが三機回っている。

「このままドローンを飛ばしておいたらどうですか」

「電池が持たねえよ」

「そうか。兄貴頭いいですね」

 中で一番若そうな男が感心したように言った。

「でも一度電気を切らないと修理できないからな」

「その間俺たちが警備するんですか」

 真ん中の人間が不満そうに言った。

「まあ、そうなるかな。寝てる間にゾンビにここにはいられるか、皆で警備するかということだ」

「でも、ゾンビなんて、あの和人が来てからずっと言ってるけど、全く見ないじゃないですか。」

「でもテレビじゃすごい騒ぎですよ」

「そういえばサツも来ないしな」

 三人は、そんなことを言いながら、辺りを見回してどんぐりや枝を拾い始めた。

「のんきなことを言ってるなあ」

 五右衛門は、聞きながらずっと男たちを観察していた。

「何見てるんだよ」

 スネークが警戒しながら言う。スネークは何かあってもよいようにずっと銃を構えている。

「あいつらがどこから入るか見てれば、敷地内に忍び込む場所が見えるでしょう」

「なるほど」

 次郎吉と五右衛門とスネークはそのまま男たちを見張っていた。男たちは、基本的には疑うことはなかった。そもそも、外はゾンビであふれているという状況で、安全な壁の外に潜んでいる人間などがいるはずがないと思っている。もしも、何か飛んできたとしても、それはゾンビが投げているとしか思えない。ここ数日間、ずっとバス会社の中にいて、壁の外を見ていないだけに、実際にどのようになっているのかは全くわからない状態であった。

「早くしないとゾンビがくるんじゃないですか」

「そうだな、夜になったら来るかもしれないからな」

「そうですね。たまに警報が鳴ったりカメラが動いたりしますからね」

「今まではたまたま何も映っていなかったが、これから何が起きるかわからないからな」

 この男たちの中の指揮官と思われる男がそういうと、引き上げにかかった。

「見ろ、あの壁の横の木のところ、あそこが出入口だ」

 五右衛門は、その出入り口を見つけた。

「どうする」

「俺は、ここからその建物の屋上に渡る」

 次郎吉が言った。

「どうやって」

「そこは泥棒だよ。縄くらいは持ってる。まあ、それが無くてもいけると思うけどね。そこで五右衛門とスネークはあの入り口から入って、建物の中で落ち合う」

「次郎吉さんはどこに資料があるかわかるのかい」

 スネークは言った。当然の疑問だ。

「そんなものは、中で最も立派な部屋が郷田の部屋だ。ただ、そんなことをしなくても、資料のありかはわかる。」

「どうやって」

 五右衛門はもっとわからない顔をした。

「これから時田さんがゾンビを連れてくる。その時に、後ろの扉が開いていれば、ゾンビが入るということだ。そのときに、最も大事なものを取りに行くだろ」

「なるほど」

 スネークは納得した。

「そこで、あの裏口の扉を壊して、近くにスピーカーを付けて、タイミングでゾンビが入ってきたと騒ぐ」

「それまでに様々な所にカメラを仕掛けないとね」

「そうだ」

 五右衛門と次郎吉は、それぞれ元場に向かった。スネークは壁の裏口から入り、そして扉を壊した。五右衛門は会社棟の中に入り部屋の中が見える場所に、次郎吉は、宿舎棟の中にそれぞれカメラを仕掛けた。

「さて、あとは時田さんを待つだけだ」

宇田川源流

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